氏作。Part17スレより。


私の名はアグリアスオークス。聖戦を終え安息の日々を取り戻した騎士だ。
ああ、朝日が眩しい。今日はいい天気だ。窓を開けると爽やかな朝の空気が流れ込んでくる。
ベッドの中のラヴィアンとアリシアが震えているけど、気にしない。
さぁて、それじゃ朝練にでも行くとしよう。今日の朝食は何かな〜? るんたった〜らんたった〜♪

そいや! せいや! うるぁ! ごるぁ! あぐるぁ! あぐぁりゃぁ!
ふー、素振りは気持ちいいな。こんなに清々しいとモンスターを一匹くらい斬りたくなってくる。
どこかにモンスターいないかな? なぁんて町の中にいる訳ないかぁ。アッハッハ。
……ん? あそこに何か……宿の窓の近くに半透明の何かがいるぞ? あそこは確かラムザの部屋……。
まさか聖石を狙う悪霊か何かか!? ラムザが危ない、成敗してくれるぅー!
聖剣技の範囲に入れるためダッシュダッシュ! くっ、鈍足の私では間に合わないかも……。
お? これはラッキー、悪霊がなぜかこちらへ向かってきたぞ! うわははは、目にものを見せてくれる!
天の願いを胸に刻んで……。
アグリアスさ〜ん!』
……ふぇ?
おや? この悪霊見覚えあるなぁ……って、ラムザじゃないかー!!
『よかった、僕が見えるんですね!? アグリアスさぁん、助けてください』
何が起きたかよく分からんが、きっと私のせいだろうなぁと過去の経験から悟っていた。


ラムザは朝目が覚めたらすでにこの状態だったらしい。
自室にあるラムザの肉体は呼吸こそしているものの、どうやっても身体の中に戻れない。
壁をすり抜けて隣のオルランドゥ伯の部屋に行ったが、私同様早起きしていたオルランドゥ伯はラムザを知覚出来なかったらしい。
どうする事も出来ず途方にくれていたらいつの間にか窓の外に出てしまい、自分に向かって駆け寄ってくる私を発見したらしい。
『ああ……どうしてこんな事に。まったく心当たりがありません……』
えっとぉ、とりあえずまあアレだ……ゴメン。
『……は?』
実は昨晩のケーキは魔列車の幽霊から教わったものだ。魔列車とは死者の魂を霊界に運ぶ乗り物で、色々あってそこでケーキを学んだのだ。
『……あ、アグリアスさんも食べましたよね? 何ともないんですか?』
今日も早起き元気モリモリだい。
『……そうですか』
とりあえずラムザの部屋に行ってみよう。身体を起こせば自然と魂も戻るかもしれん。
『そうですね、行きましょう』

ラムザの部屋は鍵がかかっているらしいので、鍵を閉め忘れたという窓から入った。
部屋は三階だったが高低差無視をセットした私にかかれば楽勝だい!
スヤスヤと安らかな寝息をたたえるラムザがあまりにも愛らしいので、私はさっそく
『とりあえず跳ね毛を引っ張ってみてください』
ウェええいいふぁんfにあいのふぁに!??! そそそそそそそんないきなり! 重要な過程を色々スッ飛ばしてるぅぅうう!?
結婚するのだってまず手を握って肩を抱いてキスをしてと順々にやってくのにいきなり銀婚式を挙げるようなスッ飛び具合だぞ!?
『いや、髪を引っ張るくらいでそんな……』
ま、まあいい。引っ張れというなら引っ張るが、それで起きるのか?
『ええ。昔はよく寝坊してたんですけど、ディリータが跳ね毛を引っ張って無理矢理起こして……それ以来癖になっちゃって』
そうか。ディリータよくやった、お前の仕事は今後全面的に私が引き継ぎ独占する。


それじゃあ引っ張るぞー。まずは握って、うわフサフサ。ラムザの髪はシルクか? いやシルクよりずっといい。
では軽〜く、えい!
「ふあぁん……」
何今のあえぎ声ー!?
『あうっ……そういえば髪を引っ張って起こす時に変な声を出すってディリータが言ってたような……』
「……ふぁあん……くきゅぅ……ふぇぁあ……ふむぅ……くぁあ……ぁはぁあ……」
『ってアグリアスさん、引っ張りすぎです』
すすすすすすまん、あまりにもラブリィでプリチーだったもので、つい……。
二人そろって赤面しつつ、次なる手段を考える。
とりあえず肩を揺すってみたり、ほっぺをつねってみたり、鼻をつまんでみたりと、それはもう幸せな時間が過ぎていった。
まさに至福! 至福! 至福!!


「……くぅ……くぅ……」
『起きませんね』
うむ。
『どうしましょう?』
ん〜……眠っている人間を起こすといったらやはりパーティーアタックなのだが、軽くこづいてみても起きんしな。
万能薬やエスナも効果が無いし、手の打ちようが無い。
『後は……王子様のキスとか』
……………………何ですと?
『なぁんて、それはお姫様を目覚めさせる方法ですしね。えっと、他には……』
ま、まあ待て。このまま目覚めんでは困るだろう、そこで、まあ、えっと、性別が逆だが試してやってもいいぞ。
『……えっ!? そ、それって……まさか、その、キ……』
言うな。
『すっ、すみません……』
ででででわやるぞ、い、いいな!?
『はっ、はい!』
止めるなら今のうちだぞ!? ほ、本当にいいんだな!?
『も、もちろん……です!』
こここ後悔しても知らんぞ!?
『後悔だなんて、そんな! 僕はっ……!』
では、アグリアスオークス……参る!

ゆっくりと腰を折り、静かに寝息を立てるラムザの唇にゆっくりと自身のそれを近づけていく。
あたたかい彼の呼吸が唇をくすぐり、それだけで痺れるような甘い感覚が頭を溶かす。
熱を持った頬が紅潮し、自然と目は細められ……閉じ……確かなのは唇にかかるラムザの吐息だけ……。
ラムザー、朝だぞー!」


突然ドアをけたたましく叩く音と、場の空気をぶち壊す品の無い声。
ムースーターディーオー! おのれいいところで邪魔をしおって! 成敗してくれるぅ!
『ああああああ!!』
うわぁっ! ら、ラムザ。突然悲鳴を上げてどうした!?
『あ、アグリアスさん! 身体! 身体!』
ん? 身体がどうかし……って私も幽霊になっとるー!?
んでもって私の身体がラムザの身体におおいかぶさって唇と唇がピッタリとくっついてー!?
ああああああああ何て事だ私はまだラムザの唇の感触を感じていないのにいいいいいいいいいいいいいい!!!!
「あっれー? こんな時間になっても起きてこないなんて珍しいな?」
「ちょっと気になるわね、無理矢理開けてみましょうよ」
こっ、この声はラヴィアン! 普段は寝ぼすけのくせに何で今日は起きてんだー!
というかマズイ。今のこの魂の抜けた身体がどうなっているかを見られたら非常にマズイ。
ラムザを起こそうと色々やってるうちに布団は横に除けられ服は微妙に乱れて……。
「おもし……いいえ、嫌な予感がするわ。ムスタディオ、ドアを破るわよ」
「おいおいラヴィアン、そりゃさすがに……」
「中で何か大変な事が起きてる気がするの! いっくわよー、ドアノブブレイク!」
何でそんなに勘がいいんだー! つかドアノブブレイクって何だー! ドア開いた。ムスタとラヴィアン入ってきた。

「……………………」
「……………………」

パタン

何も言わずに出ていってしまった……。
『……どうしましょう?』
……どうしよう?


その後、私がラムザを押し倒したとか襲ったとかって話を聞きつけた仲間達が部屋に押し寄せた。
だが私達の意識が無い事に気づき、霊感の強かったアリシアに発見してもらい、元の身体に戻る機械をムスタディオに作ってもらうのに丸一日かかった。
何だかんだで大変な一日だったが、ラムザの唇の感触を味わえなかった事が非常に悔しい。血涙が出そう。

「今日は大変でしたね」
夜、寝る前にラムザが声をかけてきた。何となく気恥ずかしくて、ぶっきらぼうな態度を取ってしまう自分が悔しい。
「あの、アグリアスさん」
何だ?
「一ヵ月後を楽しみにしていてくださいね」
ふぇ? う、うん。
「それじゃ、おやすみなさい」
おやすみー……。
はて、一ヵ月後? 何かあったかな……って、ホワイトデーか!

おかげでその日の夜はホワイトデーのお返しに何がもらえるのか気になって眠れず、さらに色々妄想していたせいで枕が鼻血まみれになってしまった。
明日は貧血決定。



バレンタインで行く&逝く! 完! ホワイトデーのSSは無い!