氏作。Part17スレより。


私の名はアグリアスオークス。来るべき聖戦に備えて入念な準備をしている騎士だ。
手作りチョコレートを用意するためカカオを探して一週間ほど暇をもらったのだが、一向に良質のカカオが手に入らない。
いつの間にか秘境を三つほど発見してしまった、今は魔列車に乗ってラムザ達との合流地点に向かわせている。
最初は私のあの世に連れて行こうとした魔列車だが、ボコボコにしてやったら言う事を聞くようになった。
とりあえず幽霊の持ってくる豪勢なディナーを楽しみながらこれからどうしたものかと首を捻っている。
もうバレンタインまで時間が無く、カカオ探しの旅は断念せねばなるまい。
こうなったら市販のチョコレートを溶かし、ハート型の容器に……いやいや、ハート型は恥ずかしいな。
ここはやはり聖騎士らしく剣の型で……いやさすがにそれはバレンタインの空気を読んでないので却下。
ああもうどうしよう。それにしても、ポーキーの丸焼きとチョコボ手羽先が絶品だ。
モグモグモグ、う〜ん……しかし市販のチョコレートを溶かして容器に入れるだけなんて手抜きと思われかねん。
市販のチョコを使うなら、もう少し凝ったものがいいな……。
おっ、幽霊がデザートを持ってきたぞ。これは美味そうなチョコレートケーキ……。
これだ━━━━━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━━━━━!!!!
パクリ。美味ッッ!! 幽霊よ、シェフはどこだ!? ぜひともこのチョコレートケーキのレシピを教えてくれ!
ああそうそう、ついでに材料も売ってくれ。
ムフフフフ、待ってろよラムザー! 飛びっきりのチョコレートケーキを作って行くからなー!


やってきましたバレンタイン前日。無事パーティーと合流し、ドーダーの宿にて一休み。
だがしかし、宿の女将に頼んでキッチンを使わせてもらっている。
ラヴィアンは義理チョコを人数分買い込んであるから来ていない。アリシアは市販のチョコを溶かして型に流し込むだけのようだ。
ラファはラムザのために義理チョコを一個買っただけ。レーゼはチョコレートプレイをするとか言っていたが何の事だろう?
メリアドールは……むうっ、ハートの型を持っているな。ハートのチョコにデコレーションをする気らしい。
ふふ、まあ私には『魔列車特性天国逝きチョコレートケーキ』のレシピがある。名前は怪しいが味は絶品だ!
さてでは作ろう。レシピを見て、ふむふむ、なるほど。これをこうして、あれをああして、それをそうして……。
おっとしまった、ちょっと失敗。でもこれくらい別にいいや、今度はこれをこうして……ああして、あっ、あ……。まあいいや。
さてお次は……まあだいたいこんなもんか。オッケェ、今度はこれを……こうっ……むっ、力を入れすぎた。
まあちょっと不恰好だけどいいや、この調子でケーキ作り頑張るぞ〜!


バレンタイン当日。
ラヴィアンがパーティーの男達に義理チョコを配ってる。ホワイトデーを忘れるなと釘を刺しながら。
さすがにラムザオルランドゥ伯への義理チョコは他の奴より箱が大きかったな。
アリシアは……知らん。昼に会った時にチョコレートの事を訊ねたが、もう渡したらしい。誰に渡したんだ?
そういえばラッドがどことなく嬉しそうだったような……まあいいや。
ラファは無邪気にラムザに義理チョコプレゼント、お礼を言われてたな。マラークがハンカチくわえて泣きながら見てたっけ。
レーゼは……夜になってからチョコレートプレイとやらを決行するようだ。いったい何の事なのか皆目見当がつかぬ。
そしてメリアは……夕食の後にチョコを持ってラムザの部屋に行った。その後の事は知らん。
ちなみに私はどうしていたかというと……朝からずーっとチョコレートを渡すタイミングを狙っていた。
まあ渡せそうなチャンスはいくつかあったんだけどいざ渡すとなるとやはり緊張してしまってだなまあその何というか……。
もう夜の十一時だしもうラムザ寝てるかもしれないしどうしよう。


時刻は深夜十一時五十分。チョコレートケーキはいまだ渡せず。
宿の裏手の川原にて、私は白い息を吐きながら星空を見ていた。ああ、綺麗だなぁ。
両手で大事に抱えているこのチョコレートケーキはどうしたものか。
バレンタイン過ぎてから渡しても仕方ないし、もったいないから自分で食べちゃおう。
包装紙を解いて箱を開けて、う〜む、形はかなりいびつだな。まあいいや。さっそく一口、パクリ。美ー味ーいーぞー!
……むなしい。
隠し味の涙をケーキに加えながら、私は独りモグモグとケーキを食べる。ああ、美味しい。美味しい……美味しい……けど……。
「美味しそうですね」
ブハァッ! 背後からの呼びかけに私は盛大にチョコレートケーキを吹き出す。ケーキの破片が川へ落ちた。
振り返ってみればお約束通りラムザの姿が!
「……チョ……ケーキですか、美味しそうですね」
おおおおお落ち着け私、これはラムザに食べてもらうチャンスなるぞ。
ら、ラムザ。この今日偶然町を歩いていたら安売りで購入した安物のケーキだがおおおお前も食うか?
「ええ、いただきます」
そ、そうか。ではとりあえず……うわあぁあああああしまったケーキに思いっ切り「ラムザLOVE」ってホワイトチョコで書いてある〜!
電光石火でホワイトチョコの文字を指で潰し、それからケーキを一切れ渡す。
背後から声をかけられたが、私が影になっていてきっと文字は読めなかったはずだ、うん、きっと。
「……甘くて美味しいですね」
そそそっ、そうか!? そうだろう、実は私もそう思っておったのだ。ワッハッハ。
「それに……何だかとても温かいです」
……ふぇ? この寒空の中持ち歩いてたケーキだから冷え切ってるはずだけど……。
「いえ。温かいですよ、とっても」
……そ、そうか? ……ふむ。まぁ、私も貴公と一緒に食べられて少し胸があたた……いやいや何でもないワッハッハ。


ちなみに……ラムザがチョコレートケーキを口にした時間がバレンタイン当日だったか零時を回ってからだったかは分からない。
でも美味しいって言ってもらえたから、まあ、いいか。