氏作。Part15スレより。


「情勢は複雑だ。王妃と白獅子公の動きも活発になってきている」
「不測の事態にも迅速に対処出来る者でなければ務まりますまい」
修道院から切り離れての少人数の護衛行に移行した場合も考えると、
 厳しい状況だ、王女と親密な関係を築ける人間が望ましいぞ」
「王女は無類の本好きと聞いているが」
「しかし癒着は困る。独断で行動されてもな。我等の忠実な駒に徹して貰わねば」
「優秀過ぎるというのも困りものですな」
「一番大事なのは何をおいてもあの王女を死守する事だ。何の為に赤子を用意したのだ」
「あからさまな発言はお慎みを。いずれにしろ修道院長にも話を通さねばなりますまい」
「我々を裏切るかというなら、アトカーシャ家の衛星貴族であれば問題は無いでしょう。
 自分の家の断絶と家族全員の処刑の危険をあえて冒す愚か者などおりますまい」


「・・・条件について他に何かあるかね。無ければそろそろ人選に移ろう。
 これは孤立した状況に置いても的確な判断が必要とされる高度な任務だ。
 しかし今我々が完全に管轄下に置いているのは王家直属の近衛騎士団しか無い。
 従って、人材は近衛騎士団から出すより他にはあるまい。
 近衛騎士団長に尋ねる。状況は今、君が聞いた通りだ。
 今回の任務に君の部下の中で最も適任なのは誰かね」
白髪の初老の議長は、末席に黙々と控える近衛騎士団の団長に問いかけた。
浅黒い肌をした壮年の男はゆっくりと顎髭を扱きながら思慮深そうに答えた。
「条件を復唱させて頂いてもよろしいですか。
 まず如何なる状況においても王女を護衛出来る武力を持っている事。
 王女と信頼関係を結ぶに足る教養を持っている事。
 そして元老院を絶対に裏切る心配の無い信頼の置ける出自である事。
 この三点ですな。そしてもちろん女性である事」
並み居る元老院議員たちは団長の発言を心中で吟味した。
まさにそれこそが彼らの求めている人材だった。
「それなら、アグリアスオークス以外にはおりますまい」



アグリアスは戸惑っていた。
彼女の執務室に慌しく乱入してきた伝令に火急的速やかな緊急の召喚と告げられ、
その時やりかけていた今週末に必出の来年度近衛騎士団予算申請書の作成を
部下のラヴィアンとアリシアに任せてきた。
アグリアスを含め彼女らももう三日間寮には帰っていない。
二人の呪いの言葉を背中に浴びつつアグリアスは執務室を抜け出てきた。
彼女が勤務する近衛騎士団の館と元老院の議会場は宮殿を挟んで真逆の方角にある。
チョコボを急いで走らせ街中をぐるりと回り、やっと元老院の象徴たる壮麗で巨大な
石造りの建物に着いた彼女は、入り口で待っていた団長に案内され、
予想に反してその議会場にではなく、隣接する館のとある一室に通された。
窓が設置されていないその奇妙な広い部屋には中央に大きな縦長のテーブルが置かれ、
見覚えのあるイヴァリース最高の上院の元老院議員たちがずらりと座っていた。
団長に仕草でいざなわれたアグリアスはテーブルの端に立ち、直立不動の姿勢を取った。
緊張に震えた彼女は救援を求めて団長に視線を送ったが、頼みの団長はそ知らぬ顔で
彼女の横の席に着席し、目を伏せてテーブルの上に置かれた書類を覗き込んだ。
嫌な予感のする中、議員たちは皆座ったままアグリアスに軽く会釈をした。
そして一段落すると、彼女から一番遠くの位置、すなわちテーブルのもう一方の端に
腰掛ける初老の議員が厳かな声で話を始めた・・・



それは相談や依頼ではなかった。それははっきりとした命令、指示の通達だった。
現在就いている途中の仕事からは全て解放される事、
元老院が指定したリスト内に限り部下を好きに選んでよい事、
この任務の遂行に必要な予算の申請は通常の処理をされず直接この会議に通される事、
仮に任務に失敗した場合彼女たち及びその家には相当の処罰が課される事、
派遣される彼女たちの身柄は特別な制限を受け、派遣地や目的等のこの任務に関する
あらゆる情報に関しては、家族に対しても完全な守秘義務が課せられる事、
などが次々と言い渡された。
アグリアスは初め何故自分のような若輩がここに通されたか分からず茫然としていたが、
議長の話を聞いているうちに段々とこれは大変な事になったと思い始めた。
彼らは不可能を要求しているのだ。
しかももしこの任務に失敗したとなれば、それは全てアグリアスの責任になるのだった。
昨今の政治的緊張については職務上彼女も世間で言われる以上の事は知っている。
だが彼女にとっての政治的関心は、王家と近衛騎士団のこれまで通りの存続の希望を
超えた所には無かった。“白”だろうと“黒”だろうと、王家を尊重する勢力は味方で、
王家を蔑ろにする勢力は敵であり、迷う事は何も無かったのだ。どちらかと言えば
彼女は“黒獅子派”だったが、それはオリナス王子を抱える王妃ルーヴェリアが、
王家の代弁者の役割を果たしていた元老院との全面対立を辞さない強硬な姿勢を
見せるようになったからに過ぎない。しかしこの部屋に入って以降、
アグリアスは自分がまさにその泥沼の渦中に置かれた事を感じていた。


議長は任務の説明に続き、元老院の方針は“オヴェリア擁立”にある事を明確に述べ、
アグリアスが任務を完遂し王女を死守する事が国の秩序回復にとって必要不可欠であり、
我々は貴公の働きに大いに期待する、以後必要な事項については団長に相談するように、
と締めくくった。アグリアス自身に発言する機会はついに与えられなかった。



会議はそれで終わったものらしく、議長を初めに上座から次々と議員たちは席を立ち、
部屋を出て行った。ほとんどの者はアグリアスを相手にもしない様子だったが、
数人の議員は、立ちつくすアグリアスの肩を叩いてなにくれとなく同情的に声をかけた。
議員たちが退室した後、最後に残った団長を彼女は恨めしげに睨んだ。
団長は苦笑いをしながら立ち上がり、二人は連れ立って部屋を後にして廊下に出た。
「まあそんな目で見るな。君を推薦したのはこの私だ。
 しかたあるまい。君以上の適役は私たちの団にはおらんのだから」
「おだてても何も出ません。折角の特別手当も棺桶に入れられては無駄となりましょう」
「そう悲観するでもない。お偉方は過剰に危険を訴えて君の職業意識を高めておるのだ。
 私は部下をみすみす死地には送らんよ。君たちの力量があれば充分に任務を果たせると
 見越しているからこそ、君を推したのだ。無論、困難な任務には違いないがね。
 しかしやり遂げれば君たちは我が騎士団のこの上ない誉れとなるだろう。
 それに、無事団に帰る事が出来れば君は間違いなく聖騎士の称号を受けられる」
聖騎士という耳慣れぬ単語にアグリアスはびくりと反応したが、
すぐに彼女の脳裏には空の墓を前に敬礼をする近衛騎士団の面々が浮かんだ。
なお名誉の殉死を遂げたアグリアスオークス二階級特進して聖騎士となった云々。
縁起でもない。



「まあそれはともかく。とりあえず部下の件ですが、
 まずはそのままラヴィアンとアリシアを頂きたい。
 この護衛は緊密な連携が必要とされる任務ですから、
 私と一年以上勤務を共にしている二人がいれば心強いのです」
「よかろう。二人ともリストには入っているし、君と同じ事務畑だが腕は立つ。
 今年度の予算申請の仕事は他の者に引き継いでもらおう」
「・・・聖剣技はオークス家の人間としての嗜みに過ぎぬと思ってまいりました」
「人生何が起こるか分からぬものさ。わっはっは」
「笑い事ではありませぬ」


白羊の第一日、騎士アグリアスオークス率いる十人の近衛騎士は、
全員チョコボに騎乗して防寒の効果の高い革のマントに身を包み、
まだ薄靄の霧に包まれた早朝、王都ルザリアの南門を出発し、
まだ春先の吹雪の絶えぬファルメリア高地に向かった。
貿易都市ドーターから伸びる半島の端に建つオーボンヌ修道院まで約一週間の道程である。



寒々と吹雪く春先のファルメリア高地を越えた一行は、
ドーターで物資の補給を済ませた後、さらに南にチョコボを進めた。
目指すオーボンヌ修道院はなだらかな丘や森を約一日分越えた向こうにある。
当時のオーボンヌはそこから一番近い街がドーターであり、相当の僻地だった。
一行は無駄口も無く黙々とチョコボを走らせる。
やるべき準備は終え、やるべき任務は任地に到着してからである。
起伏の大きい道をある程度の速度を保って走り続けるのはそれなりの技術が要ったが、
職業能力として馬術が身に染み付いている彼女たちにとっては機械的作業に過ぎない。
頭が暇になっていたアグリアスはぼんやりと思い出していた。


あの会議から数刻後、団長と詳しい話を終え、重い足取りで執務室に戻った彼女は、
顔を見るなりさっきよりもさらに強くなった非難を次々と浴びせる二人の部下を手で制し、
部屋の一番奥の自分の椅子にぐたりと腰をおろした。
さてどう説明をしたものか。
団長の命令を団員たちに分かりやすく噛み砕いて説明し、また、団員たちの意見を
汲み取って団長に待遇改善を求めるのは、大抵は経理担当のアグリアスの役目だった。
しかし、これほど団長の命令が奇妙かつ無理難題だった前例は無かった。
アグリアスは二人に休憩するように言い、アリシアには給湯室からお茶セット一式を
貰ってくるように指示した。頭脳労働には甘いものが欠かせない。給仕とは当然だが
意図的にコネクションを強めていた。“セット一式”と言えば執務室御用達である。



アグリアスはチョコレートクッキーを紅茶で喉に流し込みながら、事情を説明した。
最初は重労働を休めて甘いものを口に出来ると素直に喜んでいた二人だったが、
話を聞くうちに次第に渋面になっていった。まあ予想は出来ていた事だ。
ラヴィアンは顔をしかめて言った。
「それはひどすぎます。連中はアグリアス様に責任を擦り付けているんですよ。
 政治の段階で事態が収拾できないからって、失敗したらそれは護衛のせいって・・・」
「口を慎めラヴィアン。政治は向こうの領分だ。
 私たちがあれこれ是非を判断する事は出来ない。
 最善を尽せばこそのこの任務かもしれんのだ」
「しかしまたなぜアグリアス様なのですか? それに、私たちも。
 団長の人選には首を捻ります。女性である事が任務上当然にしても、
 私たちはアグリアス様と違って聖剣技は使えません。
 それにアグリアス様だけじゃなく私たちまでも抜けたら誰が経理の仕事をやるんです。
 予算申請書の提出は今週中なんですよ!」
がちゃりとカップを受け皿を置き、アリシアも憤然と言った。
「・・・お前たち二人を要員に希望したのは私だ」
突き刺すような二人の視線に耐えられずアグリアスは顔を背けた。



 ──さっきも言っただろう。途中の仕事は全て引き継がれると。
 今週中という期限は延ばされるらしいし、そういう事はもう気にしなくていい。
 今回の任務は“他の全て”に優先する。
 経費は月々まとめてドンと渡されてそこから好きに使っていいそうだ。
 私たちが今まで見た事も無い金額だぞ。いつものような細かい報告書も不用。
 イヴァリースの最高意思決定機関からの直々の命令なんだ。
 “敵”以外に任務に支障をきたすものは無いと考えていい」
クッキーが山と積まれた大皿はいつのまにか空になっており、
アグリアスは二人のカップに紅茶のお代わりをついでやった。
もう一時間も経ったろうか。ポットももう空になりつつある。
これが酒なら重たい気分を吹飛ばして酔えたろうが、さすがに勤務中に酒ではクビが飛ぶ。
もっとも任務に失敗してルザリアに帰還すれば文字通りの首が飛ぶわけだが。
「出立が二週間後の白羊の一日とすれば、準備も急がないといけませんね。
 家族への挨拶は許可されてるんですか?」
アリシアはだるそうに聞いた。ようやく二人も腹を据えてきたようだ。そうでなくては困る。
「ああ。もちろんどこに派遣されるか、何方を護衛するかなどは秘密厳守だがな。
 挨拶は許されているから会ってくるといい。長期出張とでも言っておけ。
 元老院が定めた任期はさしあたって一年だからな。
 一度任地に赴いたらそうそうは帰れないと思ってくれ。
 さて、任務に当たる総人数は十人だが、さっき団長と話し合って誰を使うかは
 もう決まっているから、明日正午ここに集合するように連絡をしよう」



アグリアスはやおら立ち上がって机の上を片づけ始めた。二人も席を立って手伝う。
タオルでクッキーのクズを拭き取りながらラヴィアンは尋ねた。
アグリアス様は御家族とは会われないんですか? オークス家はルザリアでしょう?」
「ん、あぁ、そうだな。私も会ってくるか・・・」
一番重たいのはこれかもしれない。正確な事実を教えるわけにはいかないが、万一知れば
両親は卒倒するだろう。オークス家は代々アトカーシャ家に仕えている大変歴史深い旧家
だったから、男でも女でもオークスの血統を受け継いでいれば大体の者は聖剣技を使えた。
しかし約五世紀半前にアトカーシャ家が戦乱のイヴァリース全土をついに征して王朝を
開いてからというもの、それまで聖剣技の使い手であるホーリーナイトを戦場に次々と
投入して主家の覇業によく貢献していたオークス家は、ルザリアに拠を構え王家となった
アトカーシャ家の護衛を主な役目とするように変わっていったのだ。
そして十八代に至りいまや王家の勢いは衰え、オークス家も没落の一途を辿っていった。
かつてはオークス家は聖近衛騎士団に最も多く人材を送り込んでいたものだったが、
オムドリア三世の時代にはアグリアスオークス一人となってしまったのである。
とはいえオークス家の当主たちは自分たちの力を有効に使う道を心得ていたから、
自家の人間の教育には剣だけではなく学問と教養を重んじるようになった。
戦場に赴く事が無い近衛騎士の出世には剣捌きよりはそちらの方が大事だと分かっていた
のである。アグリアスもまたそのような教育を施され、十八になって正式に騎士の称号を
得て独立した頃には両親を凌ぐ教養人になっていた。勝ち気ではあっても汗をかくのは
好まないという、彼女の生まれつきの性質も幸いしていたかもしれない。
出世欲は人並みにあったが、だから彼女と、彼女の両親が彼女に期待する未来は、
ルザリアの館の座り心地の良い絹張りの椅子の延長線上にあったのだ。
父上も母上も愛娘が死地に送られる事になるとは夢にも思わなかったに違いないと
思うとアグリアスは苦笑した。彼女自身思いにもよらなかったのだから。
もっとも、オークス家の本来の由来を考えればそれはまさに至極真っ当だったのだが。


底の浅い小川にざばんと飛び込んだ所でアグリアスは我に返り、
後方に続く部下たちを振り返ってみた。全員続いて次々と水しぶきを上げている。
彼女を含め、彼女に任された九人の部下は全員、革のマントの下には地味な装飾の
ミスリルの鎧を纏っていた。腰に帯びるのはミスリルソードである。
本来近衛騎士団は王家と元老院の権力を誇示する象徴でもあり、見た目の派手さでは、
当時王家と同等以上の勢力を持っていた南北の騎士団をはるかに凌いでいた。
統一されたデザインのゴールド装備を全身に纏った近衛騎士団が、行進する時などに
日に照らされ、彼らの鎧兜と盾が一斉にキラキラと輝く様はまさに荘厳そのものであり、
見物人たちに嘆息を漏らさせたものだった。
しかし今回は近衛騎士団定番のゴールドセットではなく実用が重視され、
目立たず、かつ軽くて扱いやすい高性能のミスリル製の装備が支給された。
強度のわりに軽量のミスリルセットは馬上での戦闘に最適であり、
王女を連れてチョコボで移動する場合に対応できたし、
またミスリルアーマーに至っては普段着としても使用が可能なように
鎧としてはかなりスリムに設計されており、王女の全生活の護衛にも向いていた。
それにいざという場合には、非力な王女にも鎧を着てもらう事も見込まれていたのだ。
そこまでするのは護衛の任を司る近衛騎士団としては名折れだったが、
王女を護衛しきるにはなりふりを構ってはいられなかったのだ。


アグリアスは団長と話をした時に「それならなぜオヴェリアを王都に招かないのか」
という当然の疑問を呈示した。職務上、政治事情に通じる団長は次のように説明した。
元老院にはオヴェリアを手元に置いて保護出来ない理由がある。
つまり、王都ルザリアには王妃ルーヴェリアの手が深く張り巡らされており、
暗殺を未然に防ぐ事は逆に難しかったからである。
侍女やコックに至るまでスパイが潜り込んでいると言われており、
その完全な排除は元老院の力をもってしても不可能だった。
暗殺は元老院の十八番でもあったが、ルーヴェリアのやり方も非常に周到だった。
だからこそオヴェリアは王女という高貴の身分にも関わらず、
王都から離れた僻地の修道院を転々としなければならなかったのだ。
ラーグ公と王妃ルーヴェリアはオヴェリアを邪魔者として排除したがっている。
また、ゴルターナ公は己の政権の傀儡としてゼリテニアに囲い込みたがっている。
暗殺を企てるならラーグ公らであったが、ゴルターナ公が強引な手段で誘拐し
ゼルテニアに確保する可能性も充分に考えられた。
ルーヴェリアからオヴェリアへの緩やかな政権交代を目論む元老院にとっては、
オヴェリアはどちらの勢力にも渡すわけにはいかなかった。
王女が暗殺されるか、もしくはゴルターナ公に奪われた時点で内戦が勃発する。
そうなってはその内戦の勝者が次代の王となってしまい、アトカーシャ家は倒れ、
ただでさえ弱まってきていた元老院の力は完全に失墜する。
オヴェリアを擁立するだけならゴルターナ公と同じだったが、
それはあくまでも元老院の主導によらなければならない。
一地方の豪族による中央集権は、イヴァリース既得権益を牛耳っている
数多くの貴族の集合体で成り立つ元老院の最も忌むべき事だった。
アグリアスたちの派遣は、予想されるあらゆる危険に対応して未然に防ぎ、
それによって自分たちの政治絵図を実現しようとする元老院の最後の手段であり、
王女オヴェリアを元老院にとっての“カード”のクイーンに例えるなら、
騎士アグリアスオークスはまさに元老院の“切り札”、ジョーカーだったのだ。



小川が深くなってきたところで岸に上がり、脇の森を抜けて広けた平地に出ると、
もう潮の香りが漂っていた。海にせり出した小高い丘の上には古びた修道院が建っている。
その修道院こそ十二世紀以上も昔に建設されたというオーボンヌ修道院である。
彼女たちの到着は既に見張りによって確認されているだろう。
しかし正面の錆ついた大きな扉は堅く閉じられたままになっている。当たり前だ。
アグリアスは全員に下馬を命じ、チョコボを牽きつつ、門の前で物静かに口上を述べた。
「私はルザリア聖近衛騎士団から派遣されました騎士アグリアスオークスと申します。
 連絡があったかと存じますが、王女オヴェリア様の護衛の任を仰せつかって参りました。
 開門をお願い致します」
彼女の声と同じく、門は静かに開いた。



以下、未完。