氏作。Part14スレより。





私の名はアグリアスオークス。オヴェリア様にお仕えする騎士だ。
いざ最終決戦かと思いきやムスタディオのせいで機工都市ゴーグへ逆戻りだ。面倒くさい。
しかも聖石が関係ある事だというから戻ったというに、珍妙な鉄球にアクエリアスの印があるだけではないか。
解散後の自由時間、暇を潰そうと鉄球の様子を見にきてみた。まったく、この鉄球のせいで無駄足に……。
軽く蹴飛ばしてやろう。うりゃっ、ゲシッ、グラッ、ゴロッ、ゴロゴロゴロ……ドッカーン! ガラガラガラ。ゴ〜ロゴロ。
……………………私の蹴りでバランスを崩した鉄球が転がって壁をぶち壊し外に出てそのまま転がっていってしまった。
い、一応追いかけた方がいいな。待てぇ鉄球〜! お、あそこにいるのはラッド。おーい、その鉄球を止め……あ、潰された。
役立たずのラッドをまたいで鉄球を追う、追う、追う。お、そこにいるのはラヴィアンとアリシア。おーい、その鉄球を止めてくれ。
「あら、突然耳鳴りが」「偶然ね、私もよ。これじゃ何も聞こえないわ」
関わり合いになりたくないからって無視すんなボケェッ! またブレイクするぞっ!
鉄球は転がるどこまでも。お、あそこにいるのはラファとマラーク。おーいラファ、その鉄球を止めてくれ!
「た、大変! 兄さん、あの鉄球を止めて上げて!」「と、止めろったって……わっ! お、押すんじゃない! ギャー」
鉄球の前に押し出されたマラークを馬車に轢かれた蛙のごとく押し潰した鉄球はさらに転がる、転がる、転がる。
お、前方にいるのはラムザ……と緑頭巾! おのれまぁたラムザにちょっかい出しとるかあの緑頭巾は。
よーし鉄球よ! ラッドやマラークのように緑頭巾も押し潰せぇっ!
「おや? 何か転がってくるような音が……うわぁっ! アレはベスロディオさんが発掘した鉄球!?」
「後ろからアグリアスが追いかけてるけど、また彼女が何かしたのね? ラムザ、放っておきましょう」
「そうはいきません、あの鉄球を止めないと。命ささえる大地よ、我を庇護したまえ。止めおけ! ドンムブ!」
時魔法ドンムブ、対象鉄球、完全イノセン、ミス、前方に躍り出たラムザをハイト10くらい跳ね飛ばしそのままいずこかへ転がる鉄球。
ラムザぁぁぁぁぁぁっ!!
こうして鉄球に跳ねられたラムザ(と押し潰されたラッドとマラークとブレイクされたラヴィアンとアリシア
の治療のために、しばらく機工都市ゴーグで足止めする事に。ラムザ、本当にすまない。他のみんな、悪い悪い許してくれ。
ちなみに──私は後でこってりオルランドゥ伯にしぼられる事になった。
静かに諭すように叱るオルランドゥ伯はとても優しかったが、さすがに3時間正座しっぱなしで説教はしんどいです。
ちなみに──幸運にも事件に巻き込まれなかったムスタディオは、ツィゴリス湿原まで転がって毒沼に沈んだ鉄球を回収しに行ってる。
後日「いっそ鉄球に跳ね飛ばされてゴーグで休養していた方がマシだった」とムスタディオは語った。




私の名はアグリアスオークス。オヴェリア様にお仕えする騎士だ。
アルマ様を放ってこんな事をしていいのかは分からんが、とりあえず頼りになる新戦力をゲットした。
テンプルナイトのベイオウーフとホーリードラゴンのレーゼだ。
テンプルナイトの魔法剣は、陰陽術のノンチャージ版ともいうべき非常に使い勝手の良い技だ。
という訳で1軍入りが決定し、ムスタディオと緑頭巾のどちらを2軍落ちさせるかラムザオルランドゥ伯が相談していた。
どちらも捨てがたいが、個人的にはモンスター相手に役立たずの緑頭巾を推薦したい。
だが物理攻撃力の高さを評価されてるらしく、なかなか決まらない。ええい、殲滅力ならオルランドゥ伯だけで十分ではないか!
メリアドールが2軍落ちする事を祈りつつ、久々にボコの世話をしてやりにいく。野生だったとは思えぬ非常に美しい毛並みだ。
どうやらボコは新入りのレーゼが気に入ったらしく、レーゼと一緒に寝そべっている。思えばモンスターの仲間はボコだけだったな。
ボコは眠ったままだが、レーゼは私の接近に気づいたようだ。餌を持ってきてやったぞ、ほれ密漁したベヒーモスの肉だ。
ははは、美味いか? モンスターの中でも屈強なドラゴンだが、仲間になると結構可愛いものだな。
ところでレーゼ、貴公はベイオウーフ殿と仲が良いな。まるで人間同士の友人……もしくは恋人のように仲睦まじい。
ああ……私もラムザとそのような関係になりたいものだ。互いに信頼し合い、守り合い……って、それはもうやってるか。
つまり、私はラムザとラブラブになりたいのだが……ええい、あの緑頭巾め。私の恋路を邪魔しおって!


ドラゴンのお主には分からんだろうが、人間には色々あるのだ。おや、笑っているのかレーゼ?
ラムザと上手くいくといいな、とでも思ってくれてるのか? 可愛い奴め。
まぁ人語を話せぬドラゴンだからこそこんな話をしてしまうのだが……私もたまには心の内をさらけ出したいからな。
あ、そうそう。話術士が魔獣語で話しかけてきても、今の話はしないでくれよ? もちろんベイオウーフ殿にもだ。女同士の約束だぞ。
おお、うなずいてくれるとは本当に賢いドラゴンだな。気に入ったぞ。
よしよし、これから戦場ではベイオウーフ殿を優先的に回復したり補助したりしてやろう。貴公の大切な友人だものな。
まぁムスタディオやメリアドールは普通に見捨てるが。そしてラムザは最優先にサポートするが、次点がベイオウーフ殿という事で。
でも私とベイオウーフ殿の星座の相性は今ひとつというのが難点だ。うーむ弱った。だがレーゼとの相性はなかなか良いぞ。
ちなみに私とラムザの相性はなんとなんと一番良いのだ! これを初めて知った時はもう飛び跳ねるほど嬉しかったぞ。
メリアドールとの相性が最悪なのはどうでもいいとして、オヴェリア様との相性が普通だというのはかなり悲しいが……。
こうして私とレーゼの夜は更けていく。
その日から私の愚痴漏らし相手はレーゼに変わった。ボコと違って私の話を理解しているような反応を示してくれるからだ。
いやはや、本当に賢いドラゴンだ。




私の名はアグリアスオークス。オヴェリア様にお仕えする騎士だ。
ベイオウーフからもらった聖石をはめたら鉄巨人が動き出した。名前は労働八号だそうだ。
試運転として躍らせたりムスタディオをやっつけさせたりして、なかなか戦力になりそうである。
どうやら聖石をはめたラムザを主と思ってるらしく、私の「緑頭巾をやっつけろ❼」という命令には従ってくれなかった。
けど本当にラムザの命令しか聞かないのだろうか? 誰かをやっつけろ以外の命令なら私の命令でも聞いてくれないかな?
労働八号よ、お前は強いのだろう? ならばその強さを見せてはくれないか?
何、ムスタディオをやっつけただと? 馬鹿者、ムスタディオなど私やオルランドゥ伯の足下にも及ばんわ。
私やオルランドゥ伯を倒せたらお前の強さも納得いくが……って、なぜ私に向かって構えをとるのだ?
まっ、待て。確かに私を倒せたら強さの証明にはなるだろうが何も私を倒せと言っている訳ではなくてな……。
「ハカイ シマス!」で壁が砕け「アッシュク シマス!」で近くに置いてあった機械が潰され、
「ショリ シマス!」で飛び出したレーザーが壁の穴を抜けゴーグの街に降り注ぎ「フンサイ シマス!」で大地にクレーター。
や、やばい。以前の鉄球転がり事件のように、また私が責められる。人が来る前に何とかして証拠隠滅しなくては!


夜闇の翼の竜よ、怒れしば我と共に 胸中に眠る星の火を! バハムート!
恐怖の最終章 陽光閉ざす冷気に、大気は刃となり 骸に刻まん! クリュプス!
時は来た。許されざる者達の頭上に 星砕け降り注げ! メテオ!
その胸に怒りあるなら、地に眠る者達 大地の激震となれ! クエイク!
行方知らぬ風たちよ、我が声に集え 天空の門を開かん! トルネド!
神の手より滴る灼熱の混沌へ 天地創造の火よ・・・ メルトン!
ゼハァ、ゼハァ。後半自分でも訳の分からない魔法を使ったが、これくらいやれば自然の大災害とでも思われるだろう。
これで労働八号も機能停止……何ィッ!? 馬鹿な、無事だと!? ハッ、そうか。奴は完全イノセン状態! 魔法は効かぬ!
くっ、訳の分からない魔法を無意識に使った反動か身体が動かない。労働八号がとどめを刺すべく向かってくる! これまでか……。
「こ、この有様は一体!? アグリアスさん大丈夫ですか!?」
お、おお……。その声はラムザ。主人であるラムザが私を案じている姿を見て、労働八号も攻撃を中断してくれたようだ……。
アグリアスさん。この大災害の中、よくぞご無事で……。いったい何があったんですか?」
……え〜と。えぇっと。えーとぉ……。あっ! アレは何だ!?(誤魔化し)と適当に指差したクレーターの中から天球儀発見。
ちなみにこの日ゴーグを襲った謎の大災害は「機械文明に対するアジョラの怒り」だとか言われて語り継がれる事になったそうな。




私の名はアグリアスオークス。オヴェリア様にお仕えする騎士だ。
本日ネルベスカ神殿にて労働八号vs労働七号改の鉄巨人対戦があった。
無事勝利した我々は聖石を回収。その後、ホーリードラゴンのレーゼが聖石を持って神殿に入っていった。
で、中で光って戻ってきたら人間になってたー!?
ベイオウーフと抱き合っている最中、私は見た。レーゼが私をチラリと見て、ニヤリと笑ったのを。
やばいやばいやばい。てっきりレーゼはただ賢いだけのドラゴンだと思っていたからついあんな事やこんな事を話してしまった!
その夜、宿の私の部屋にレーゼが訪ねて来た。
アグリアス、今日はお話してくれないの? お姉さんさみしいわぁ」
そ、それはだな……貴公が人語を話さぬドラゴンだからと思って話していただけで、
「またラムザとの話を聞きたいわねぇ。今日も跳ね毛が元気だったとか、今日は傷の手当てをしてもらったとか」
わー! わー! 頼むからやめてくれ、顔から火が出そうだぁー!!
「フフフ。よかったらお姉さんが色々アドバイスして上げようかしら?」
……あ、アドバイス
「ええ。恋の悩み聞いて上げる。もっとも──今晩はあまり遅くまで話せないけれど」
今晩何か用事でも?
「決まってるじゃない。久々に人間の姿に戻れたんだからベイオウーフと……うふふ、今夜は激しくなりそう」
そそそそそそれはつまり……!
アグリアスもそーゆーコトしたいでしょう? ラ・ム・ザ・と」
そそそそそそーゆーコトと言われてもわわわわわ私はだなななななななな……。
「大丈夫。初めての時は痛いけれど、後はどんどん気持ちよくなるだけよ。具体的にどんなコトをするかというと……」
するかというと!?
「あら、やっぱりそーゆーコトに興味津々なのね。可愛いわぁ」
はうっ……。
こうして、レーゼは毎晩ベイオウーフ殿といたす前に私の元を訪れるようになった。
その度、私はいけない妄想の種が増えてしまい眠れぬ夜を過ごす事になる。





私の名はアグリアスオークス。オヴェリア様にお仕えする騎士だ。
天球儀にも聖石をはめてみようという事で現在ゴーグに向かって野宿中だ。今宵の火の番は私。
なぁボコよ、今度は何が出てくると思う? 鉄巨人のような不思議な奴が仲間に加わるのだろうか?
「案外恋のライバルが出てきたりしてな」
ってボコが喋ったー!? じゃなくて、眠っているボコの後ろからベイオウーフ殿登場!?
「レーゼからよく聞かされているよ、ベッドの上でね。アグリアス君はラムザとはどこまでいったんだい?」
どどどどどどどどどどどこまでと言われてもだな、私とラムザはまだ別にそういう関係ではなく友達以上恋人未満な……。
「うーむ。2人の仲が進展しないのはその初心な性格のせいかもしれないな。私と軽く練習してみないかい?」
……は? 練習と言われても何を……って、なぜ私の腰に手を回すのだ? ちょっと待て、練習ってそーゆー事かー!?
うわー! 馬鹿! 浮気者! 唇を近づけるなー! こんなところをレーゼに見つかったらどうする気だ!
って言ってる側からテントからレーゼが顔出してるー!? ああ怒るぞ怒るぞ……ってなぜニタリと笑うのだレーゼ!?
おーい、どこへ行く。私を助けてくれるんじゃないのか? なぜ男テントへ向かう!? なぜラムザを連れ出してくるぅぅぅっ!?
「べ、ベイオウーフさん! 何をしているんですか!?」
「やあラムザ君、火の番を交代するのにはまだ早いよ」
ら、ラムザー! 助けてくれぇ! 私はベイオウーフ殿を突き飛ばしてラムザに駆け寄り、華奢な胸の中にダイブする。
「あらぁ、アグリアスったら甘えん坊さんなのねぇ」「そしてラムザ君は怒りん坊だな。ちょっとからかっただけでそんなムキになって」
「ああ恐い恐い。ラムザの雷が落ちないうちに退散しましょうか?」「そうだな。それではラムザ君、アグリアス君、後はごゆっくり」
……へ? ベイオウーフ殿? レーゼ? そんなあっさりテントに戻って……って、私達はめられた?
静かな森の中、聞こえるのは虫の鳴き声と焚き火の音、そして顔をうずめたラムザの胸の奥で脈打つ早鐘のような鼓動。
暗い森の中、抱き合う2人の男女……。こっ、この展開は!?



「……えっと、どうやらベイオウーフさんとレーゼさんのタチの悪い冗談だったみたいですね」
そ、そうだな。うむ、実に嬉し……いや、タチの悪い冗談だ。す、すまんな。せっかく休んでいたのに起こしてしまって。
「いえ、お気になさらないで下さい。例え冗談でも、アグリアスさんが困っていたんだったら、僕は……」
ら、ラムザ……。
ガシャガシャドッタ〜ン! っていきなり何事だ!? て、テントが全部崩れたぞ!?
「馬鹿! 押すんじゃねーよ!」「チューは!? チューはしたか!?」「いやまだしてない! くっ、賭けは俺の負けか」
「きゃー、隊長ったら大胆」「見直しましたよ隊長」「アグリアスさんが照れてる、可愛い」「くっ、抜け駆けとは卑怯な……」
……って、全員起きてたのか!? つーか覗いてたのか!? つーかさっき賭けとか言ってたがどういう事だ!?
「やれやれ、せっかく私達がお膳立てしたというのに」「もうっ、みんなのせいで台無しねぇ」
ベイオウーフ殿! レーゼ! これはいったいどういう事だ!?
「どうって……2人を焚きつけたらどこまでいくかな〜って」「私は熱いベーゼを交わすに賭けてたのだけど、失敗ねぇ」
な、な、な……何をしているのだお前達は! ええい騎士を侮辱するとは許せん、我が剣の錆びにしてくれる!
「まあまあ、落ち着きたまえアグリアス
あっ、オルランドゥ伯! 聞いてください、レーゼ達がふざけた賭けを……。
「うむ。私は途中で賭けがバレるに賭けおったので、私の一人勝ちだ。後でラムザアグリアスに一杯おごろう」
オルランドゥ伯までー!?
「さすが雷神シド、戦い以外でも無敵ですね〜」「くぅっ、今月の酒代が……」「負けたとはいえ楽しい賭けだった」


……ふ。ふっふっふ。ふはははははは、貴公等、よほど命が惜しくないと見える。
ぬおりゃ〜! 不動無明乱命割殺北斗骨砕無双稲妻聖光爆裂剣打打突き破ー!!
「うわ〜、アグリアスが切れた〜!」「ぬぅっ、まるで鬼神……」「あー! オルランドゥ伯とベイオ達が電光石火で逃げやがった!」
「隊長落ち着いて!」「いやぁ〜! もうブレイクは嫌なのー!!」「ラムザさぁん、アグリアスさんを止めて〜!」
助けを求める部下達の懇願に、ラムザは、
「赤き五月雨に地を染めろ火喰い刀! 塵地螺鈿飾剣! 塵地螺鈿飾剣ッ! 塵地螺鈿飾剣ィッ!!」
ラムザも切れてるぞー!」「しかも敵忍者が偶然投げてきた超々レア刀の塵地螺鈿飾剣で引き出すしまくってる!」「壊れるからやめてー!」
「つーかヒビ! 塵地螺鈿飾剣にヒビ入ったぞ!?」「何だって!? ヒビが塵地螺鈿……うぐっ、舌噛んだ!」
その夜、イヴァリースのとある森がこの世から姿を消した……。





私の名はアグリアスオークス。オヴェリア様にお仕えする騎士だ。
天球儀から出てきた異邦人クラウドとやらを追ってゴーグからザーギドスまで行く事になった。
そしてさらにベルベニア活火山まで行き頂上に隠してあったマテリアブレイドも回収。それだけで一ヶ月近くもかかってしまった。
これだけ苦労したのだ。クラウドの使うリミット技とやらの威力には期待していいのだろうな?
「任せておけ、ソルジャーの力を見せてやる。うおおおー! 裏超究武神覇斬!!」
おおおおっ!! こっ、これは……!!
………………………………………………………………………………………………………………これは……?
剣を構えてプルプルと震えるクラウド。顔を真っ赤にして力んでいる。
超究武神覇斬とやらはどうしたのだろう? これクラウド、早く技を見せ……。
アグリアスさん、危ない!」
ラムザの呼びかけは遅く、私はうっかりリミット技の範囲に入ってしまった。そこで丁度裏超究武神覇斬発動。
ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!
……あ……命が流れてライフストリーム……。……百億の……鏡のかけら…………ゼノ……ギアス……。


アグリアスさん正気に戻ってください! 誰かー! フェニックスの尾と万能薬を!」
ううっ……あまりのダメージに少々アッチの世界へ旅立っていたようだ。
「どうだ、すごい威力だろ?」
た、確かに威力はすごい……。オルランドゥ伯の剣技に匹敵する。だが! 発動まであんなにも時間がかかっては役に立たぬ!
我が聖剣技なら即発動な上、威力も申し分ない! どちらがより役に立つか教えてやろう、勝負!
「興味ないね」
わーい、不戦勝だぁ〜……ってそんなん納得いくかい!! 騎士の誇りにかけてお前を倒さんと気がすまぬ! 喰らえぃ、我が秘剣!


風精刀気−宴−
 ラムザたん 今日も跳ね毛が ピンと勃つ(アグリアス心の俳句)


……あれ? 自分でもよく分からない必殺技で天高く舞い上げられたクラウドが地面に墜落。完全勝利である。
だが今の技は何だ? ど〜もアッチの世界を思い出し……ううっ、頭が痛い……天使の……うた声……ゼノギ……ガクッ。
「うわ〜っ! 誰かフェニックスの尾と万能薬を買い占めてきてくれ〜! アグリアスさんとクラウドを死なせるな〜!
 というかアッチの世界に旅立たせるな! アグリアスさ〜ん、帰ってきてくださ〜いっ!!」




私の名はアグリアスオークス。オヴェリア様にお仕えしていた騎士だ。
明日いよいよオーボンヌ修道院に到着する。思えばあそこで初めてラムザに出会ったのだな。
最初はナヨナヨした軟弱者に見えたが今は評価を改めざるを得ない。というかラムザは可愛い。可愛すぎる。
その可愛らしいラムザが……何と今私の部屋にいる。何故だ? いや嬉しいんだけどもまだ心の準備がだな……。
「……アグリアスさん。恐らく次が最後の戦いとなると思います。生きて帰れるかどうか分かりません。
だから……パーティーを抜けてオヴェリア様の元へ帰ってもいいんですよ」
……は? 突然何を言い出すのだ貴公は。
ディリータは今や英雄です。彼ならアグリアスさんにかけられた異端者の烙印を何とかする事も出来るでしょうし……」
いやいやいやいやそういう問題では無くてだな、今になってなぜ私に帰ってもいいなどと言うのだ? 私では力不足だとでも?
「違います。ただ……アグリアスさんにはついてくる理由が無いし、帰る場所もあります。
オルランドゥ伯はディリータの策略によりすでに死んだ事になっていますし、英雄としての責務もある。
メリアドールはルカヴィと化した父との決着をつけるという目的が。ラファとマラークの故郷はすでに滅びてます。
でも……あなたは違う。オヴェリア様という仕えるべき主君があります。ラヴィアンとアリシアを連れて……」
馬鹿者! 貴公は……私が何故ここまでついてきたのか分からないのか!?
オヴェリア様はもちろん大切だし、この戦乱を影で操る者を討つ事はオヴェリア様のためでもある。
アルマ様を救い出す事もオヴェリア様のためであり……貴公のためでもある。
それに私個人が貴公についていきたいと思っているのだ。それだけでは不服か?
だいたいムスタディオやラッドにだってついてくる理由など無かろう。単にラムザの力になりたいだけだ。
アリシアとラヴィアンは私の下僕……ゲフンゲフン、忠誠心の高い部下だから心からついて行きたいと思っている(はず)!
というかすでにみんな帰る場所など無いわ! ラムザについてきたから我々全員異端者だ。責任を持って最後まで連れて行け!
それに……貴公が今さら何と言おうと私は最後まで付き合うぞ。必ずやルカヴィ共を倒しアルマ様をお救いするのだ。


アグリアスさん……本当にいいんですか?」
くどい。
「……ありがとうございます。あなたに会えて……本当に良かった」
むっ……今さらそんな事を改まって言うな。照れるではないか。ラムザ、必ずみんな生きて帰ろう。
……そ、そうだ。もし……無事生きて帰られたらだな、その、貴公の頭から飛び出てる、その跳ね毛を……触らせてくれないか?
「へ? ……えっと、触りたいのでしたら別に今触っても……」
いや、すべての戦いが終わったらでいい。そうすれば……生きて帰ろうという気持ちも強くなろう。
「分かりました。生きて帰ったら……思う存分触ってください。それと、僕からも頼みがあります」
頼み? 申してみよ。
「もし2人共無事に帰ってくる事が出来たら……僕の気持ちを聞いて欲しいんです」
……貴公の気持ち? …………………………それはだな、つまり……。
「それでは、また明日」
あ、ああ。また明日……って、ラムザ、なぜ顔を近づけてくるのだ? そんなに近づけたら貴公の唇が私の頬に……あっ。
ちょっ、ちょっと待て! 今何をした? こら何も言わずに去るな! まっ、まさかさっきのは……ちゅちゅちゅ……チュー!?
………………………………………………イィィィヤァッホ〜〜〜〜〜〜〜〜ウッ!!





私の名はアグリアスオークス。異端者ラムザと共に巨悪と戦う一人の騎士だ。
だが、もはや私は立ち上がる事さえ出来ない。奴の放った白光により私は深い傷を負ってしまった。
完全アルテマ
その絶大なる魔力に、歴戦の戦士達は打ちのめされてしまった。
ラムザは……ラムザはどうなった? 首を動かすと、見慣れた跳ね毛が瞳に映る。
よかった、無事だ。だがアルマ様をかばって怪我をしている。まだ戦えそうなのはラムザオルランドゥ伯くらいか。
ラムザ! 私が時間を稼ぐ、その間にあの魔法を唱えたまえ!」
「分かりました!」
どうやら2人はまだ何か企んでいるようだ。あの魔法……? 何をする気なのだろう?
私も手助けしたいが……もう立ち上がる事も出来ない。悔しいな……。


「なあ……アグリアス


スタディオか。どうせ動けなくなるなら、わざわざ私の隣でなくともよかろう。
「さっきの攻撃でさぁ……銃が半壊しちまった。でも、暴発覚悟すりゃ後一発くらい撃てそうなんだ。
そして……まだ、奴を狙うくらいの力は残ってる。アグリアスはどうよ?」
フッ……お前がまだやれるというなら、私に出来んはずがない。
「向こう側でメリアドールも何かやろうとしてるし、どうせならラムザのフォローに回ろうぜ」
スタディオが顎で指した先には、剣を握り締めて立ち上がろうとする緑頭巾の姿。
フッ……まいったな。私はすでにあきらめかけていたというのに、
スタディオに声をかけられてやっと立ち上がろうとしたというのに、
あいつは……メリアドールはまだあきらめていない。



……よかろう。残った力、すべてラムザに捧げる。しくじるなよムスタディオ。
奴の巨大な腕が一撃必殺のパワーを持って振るわれる。
風切り音は遠く離れたこちらまで聞こえてくる。だがそれをエクスカリバーで受け流すオルランドゥ伯、さすがだ。
いつまで持つかは分からないが……。
さすがのオルランドゥ伯も後退を余儀なくされ、ラムザとアルマ様の所まで戻る。
奴が3人まとめてトドメをしようとした刹那、魔力を集束させていた奴の腕をムスタディオの銃弾が撃ち抜く。
ひるんだ隙を狙い、メリアドールは亡き弟のように天高く跳んで奴の頭にセイブザクィーンを突き刺した。
刃が頭蓋を突き破る。
怒り狂った奴に弾き飛ばされ、メリアドールは船体に背中から叩きつけられた。あれでは肺を強打され呼吸が出来まい。
そして巨大な魔力を集束させているラムザ目掛けて、奴は魔法を放とうとする。ラムザのものより何倍も強力な。
危ないと思った刹那、オルランドゥ伯が叫ぶ。
アグリアス! その腕にまだ剣を振るう力があるならば、一瞬でいい、奴を止めるぞ!」
承知! 例えこの腕がもげようとも、例え我が命果てようとも!
ラムザ! 貴公のために私のすべてを込めて……最後の技を放つ!


怒り狂った奴が豪腕を振るうよりも、オルランドゥ伯が剣を振るう方が一瞬早かった。
「大気満たす力震え、我が腕をして閃光とならん! 無双稲妻突き!」
オルランドゥ伯最強の一撃が聖なる雷を落とし、奴の身体を痺れさせる。
一瞬、だがそれだけでは足りない。ラムザが最後の魔力を解き放つには、さらにもう『一瞬』が必要なのだ。
その一瞬を私が切り開く! ラムザからもらったこのディフェンダーで!


命脈は無常にして惜しむるべからず…葬る! 不動無明剣!



聖なる氷山が降り注ぎ、奴の身体を捕縛する。だが想像を絶する最強の悪魔を捕らえきる事は出来ない。
私の最後の力を込めた聖なる氷にヒビが入り、無残に砕け散る。
氷の飛沫がキラキラと船の墓場に舞った。
嗚呼……何と幻想的な光景なのだろう。
まるで神話の世界。絵画のように美しい世界。光の中、悪魔に立ち向かう……一人の若者。


ラムザ・ベオルブ。私が惚れた男。
「虚栄の闇を払い」
今この瞬間のために……我々が命を賭けて繋いだこの一瞬に……すべてを込めて……。
「真実なる姿現せあるがままに!」
撃てぇ────────────ッッ!!!!
アルテマ!」
ラムザの魔力が白い光となって奴を包む。
奴は喉を震わせ絶叫を上げる。大気が震え、傷だらけの身体に響く。
ミシミシと船は崩壊を始め、木片が浮かび上がる。
その最中、動く巨大な影。
ああ……何て事だ。この一瞬のためにすべてを尽くしたというのに、すべてを込めたラ最後の手段だったというのに。
奴は、雄叫びを上げながら、豪腕を、振り上げた。運命は何と残酷なのだろう。
鋭い爪が、無情にもラムザに向かって──。



「虚栄の闇……払い」
声がした。ラムザの無事を願う、正義の勝利を願う、平和を願う声が。
「真実なる……姿……現せ」
まだ残っている。まだ私の力が残っていると、その声は言っていた。誰の声だ?
かすむ視界の中、ラムザのかたわらに立つあの人は──。
「……あるがままに!」
──アルマ様。
アルテマぁっ!」


白光。天から降り注ぐ美しき光。
それが奴を包んでいたラムザの光と合流し、混ざり合い、渦巻き、奴を飲み込む。
その光はしだいに大きくなり、船の墓場のすべてを満たした。
すべてを崩壊させていくそ光。何故かそれはとてもあたたかくて……優しくて……。
まるで母に抱かれているかのような安堵が、私の胸を満たしていく。


しだいに私の意識も遠のき……死の淵へと堕ちていく。眠るように、安らかに、穏やかに。
真っ白な世界の中、金色に輝く一房の跳ね毛が見えた気がした。
私は……それを掴もうと……手を……伸ば……し…………。
…………………………………………。
…………………………。
………………。





私の名はアグリアスオークス。今はもう騎士でも何でもない、ただの死人だ。
というのも、ラムザとアルマ様……それに他の仲間達も死んだ事になってるからなのだが。
スタディオ、メリアドール、オルランドゥ伯、ラファにマラーク。
ベイオウーフ殿にレーゼはもちろん、ラヴィアンやアリシア、ラッドも、労働八号もボコも生きて帰っているはずだ。
ただクラウドだけは分からない。もしかしたら彼だけは彼がいた元の世界に帰ったのかもしれない。
アルマ様の墓を見に行った時は変な気持ちだった。空っぽの墓に何を祈れというのか?
まあアルマ様の墓参りにきたオヴェリア様を見れたからよかったけど。墓地にあった木の陰からだがな。
静かに涙を流すオヴェリア様を抱き締めてやりたかったが、ディリータが抱き締めていたのでやめた。
見ればオヴェリア様はディリータに頼り切っている様子。結婚もしちゃったし、幸せみたいだから別にいいや。
会えばオヴェリア様の元へ帰りたくなってしまいそうだから、私は2人に声をかけず墓地を去った。
私はこれから旅に出る。
まずは機工都市ゴーグにでも行ってムスタディオが生還しているか確かめよう。
別にムスタディオの安否が心配なのではない。本当だぞ。そりゃ最後の最後に少々見直しはしたが……。
私はただラムザが立ち寄りそうな場所を回ろうと思ってるだけだ。
なぜラムザ達が生きていると分かるかだって?
フフフ、あの白光の中で確かに見たのだ。アルマ様を抱き締めてイヴァリースへと帰るラムザを。
帰ってくる時にみんなバラけてしまったようだがあの兄妹は一緒だろう。
待っていろよラムザ、必ずや貴公と再会してみせる。
その時は……思う存分あの跳ね毛を触らせてもらうからな。
そしてお前の気持ちとやらを私に聞かせてくれ。私も自分の気持ちを伝えるから。
フフフフフ。ラムザとのラブラブ生活まであとちょっとだぁーッ!!




アグリアスが行く! 完!






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