氏作。Part14スレより。


ある日、ラッドは思った。
「俺って最近、影薄くね?」
以前はラムザの親友というか相棒というか、そういうポジションだった。
なのに今は、ラムザの隣にはムスタディオがいる。ちなみにもう片方の隣はアグリアスが陣取っている。
固有ジョブを持つ仲間がどんどん入ってくる中、戦力的にもラッドは埋れていった。
ラヴィアンとアリシアも固有ジョブを持たないが、彼女達はアグリアスと仲良くやっている。
だが自分はどうだ? 最近ラムザと世間話のひとつでもしただろうか? 否。
孤独……それがラッドの心を支配していた。


ある日、ラッドは酒瓶を片手に街外れの丘で飲んでいた。空にはまん丸いお月様。
「ああ……孤独だよう」
宿屋で仲良く眠っているだろうラムザとムスタディオ(単に同室なだけ)を思い、ラッドは泣いた。
そんなラッドに、後ろから歩み寄る影。
「……そこにいるのはラッドか? こんな夜更けに何をしている」
アグリアスか……。いやなに、眠れなくてね……」
「そうか……私もだ。む? それは酒瓶……月見酒か」
「一緒にどうだい?」
「……もらおう」
アグリアスはラッドの隣に座ると酒瓶を受け取った。
「むっ……しまった。コップが無いぞ」
「俺の使えよ。こっち側は口つけてないから」
「それでは貴公が……」
「酒瓶から直接飲むよ。注ぎ口に口つけずに飲めるから」
こうして2人は一緒に月見をしながら酒を飲んだ。
夜の寒気を、アルコールで内側からあたためる。
寒いのとあたたかいのが合わさって、何とも奇妙な気分だ。


「何か悩みでもあんの?」
「貴公こそこんな時間に一人で酒を飲むとは、何か思うところがあるのではないか?」
「うんにゃ、俺はただ月があまりに綺麗だったから飲もうと思っただけさ」
本当は寂しくて、けれど一緒に酒を飲む相手がいなくて、仕方なしに一人で飲んでいただけだ。
でも偶然とはいえアグリアスと一緒に飲めて少し嬉しいラッドだった。
「で、アグリアスは何でこんな時間に? 何か悩みとかあるじゃないの?」
「むっ……実は、ラムザの事でな」
ラムザ? 俺この中では一番あいつと付き合い長いし……相談に乗ろうか?」
しばし黙考し、酒を二三口ほど飲んでからアグリアスはゆっくりとうなずいた。
「……最近、ラムザの隣にやたらメリアドールがいるのだ」
「ふむふむ」
「いつも楽しげに話をしている……。堅物の私と違い、メリアドールなら色々面白い話を出来るのだろうな……」
「確かに、ジョークのひとつも言えないアグリアスよりかはメリアドールの方が話してて楽しいわな」
馬鹿正直なラッドの発言に、アグリアスは肩を落として落ち込む。
普段ならもうちょっと歯に衣を着せるのだが、酔いのせいか満月のせいか、今日のラッドは思った事をそのまま口にした。


「……ラムザも」
「ん?」
ラムザも、そう思っているのだろうか? いや、思っているだろうな。メリアドールと話している時のあいつは、本当に楽しそうだ」
いつもの凛としたアグリアスの面影はそこにはなく、そこにいるのは恋に臆病な一人の乙女だった。
初々しいアグリアスの様子に、ラッドの頬が酒以外の理由で赤味を増した。
「でっ、でもよ。あんたと話してる時のラムザはすごく安心してるように見えるぜ」
「……安心?」
「いや、安心というか……落ち着いてるというか、何て言えばいいかな……?」
彼女を慰めようと咄嗟に喋り出したが、どうも上手く伝えられない。
あまり語彙を持っていない事もそうだが、酔いのせいか頭の回りが遅く、言葉が出てこない。


「あ〜、つまりだ。ラムザはいっつも張り詰めた顔してた訳よ。思えば親友を失って、当たり前の世界から逃げ出して……。
罪悪感とか、後悔とか、いっつもそういう感情を心の片隅に持ってて。たまにギャグとかで笑った時も、笑顔にどこか影があったり。
けどさ、あんたと一緒の時は違うんだ。最初はそうでもなかったけど、いつからかなぁ……。
いつからかは俺もよく分からんが、けど、あんたと一緒の時は……ガキみたいな顔するようになったんだよ。
ガキっつーか、歳相応の……。あぁ、何か訳分からんくなってきた」
頭をブンブンと振って考え込むラッド。
彼の肩を、あたたかい何かが掴む。
振り向けば、ラッドの肩に手を置くアグリアスの笑顔。母性的で、すべてを包み込んでくれるかのような笑顔。
「……ラッドの言いたい事は、十分分かった」
「そ、そうか?」
「ああ、伝わったとも。……ありがとう」
まるで月の女神に微笑みかけられているかのような錯覚に陥ったラッドは、誤魔化すように酒をあおる。
月の女神はそれ以上何も語らず、普段は頼りないが意外と頼れる戦友と肩を並べて酒と満月を楽しんだ。




翌朝。
「あらぁ、おかえりなさ〜い。そろって朝帰りだなんて隅に置けないわねぇ」
「ちっ、違うのだメリアドール。私もラッドもただ酔いつぶれてだな……」
「じゃあ一晩中一緒に飲んでたんだ。妬けるわねぇ、ラムザ
ラムザ、誤解しないでくれ! ただ私はラッドに相談に乗ってもらっていただけで……」
「あんがたラッドに? 逆なら分かるけど、もう少し真実味のある嘘をつきなさいよ」
「ああ〜! ラッド! 貴公も何か言ってくれ!」


その日、ラッドは久々にラムザと話をした。
もっとも話の内容は……嫉妬と誤解の入り混じったものだったが。