氏作。Part14スレより。




 季節が巡った。
 それは、思うより長いときだったのか。いや短かったのか。駆け足で過ぎては消えた戦乱の日々。
 やがて訪れた春の日差し。戦乱という冬を越えて畏国にやって来た、木漏れ日のような平和。
 私は待っていた。人知れずその平和の為に戦った一人の人を。
 私はその木の下で待っていた。ルザリアの外れの丘、一番目立つその木の下で。
 守られるかどうかもわからない、あやふやな誓いを胸に、私は待っていた。
 空を染めるように降り注ぐ、舞い散る桜。
 桜。たとえ彼が来なくても、桃の欠片が全て舞い散るまでは、待っていようと。


 街の喧騒が、一際高く鳴り響いてこの丘にまで届いていた。
 豊穣祭。
 長らく行われていなかった、祭りだった。ルザリアだけではない。畏国全土で、その催しは
  行われているのだろう。誰もが忘れかけていた、歌と踊りを一杯に浴びながら。
 朝は、まずは子供たちが列になって家々を巡る。聖アジョラの祝福を伝える天使の役だ。
 思い思いに飾り付けた格好で、家に一つずつ福音の手紙を渡していく。
 女たちは朝から料理を作りだし、五穀を炊き、取れたばかりの野菜を使った酸っぱいサラダ、
  昨日の夜から煮込んだ肉はあぶらが全部とろけるほどに。男たちは一年寝かした古木でやぐらを作る。
 通りの辻ごとにやぐらを立て、その高さと頑丈さを競い合うのだ。
 一番鳥が鳴いてから一斉に槌を振るい、太陽が中天にさしかかった頃に鳴く二番鳥の合図で終了。
 判定は、福音を伝える子供たちがたくさん集まったやぐらと決まっている。聖アジョラの使いであり、
 この世で最も無垢な子達の判定には、誰も異論を挟まないからだ。
 一等のやぐらを立てた男たちには、いい家をたてるという箔がつき、皆から讃えられ、そのやぐらの頂上に
 天まで民の無事を伝える「幸福の鐘」が据えつけられる。神々の恵みに答えるので、返事の鐘と呼ばれる。
 それを鳴らすのは、男とその伴侶にとって最大の誇りと喜びとされるのだ。



「お姉さんは、お祭り参加しないの?」
 女の子が、すぐそばまでやってきて言った。
 仕立ててもらったばかりだとわかる、赤いスカート。ブラウスも、きっと新品だろう。
 おませにも、唇に薄く紅も塗られていて、私はおかしく思いながら答えた。
「そうね。人を、待ってて」
 ふーんと答えて、女の子は私の隣に腰を下ろす。
 そんなことで、平和を感じること出来る時代。
 三年前なら、子供がたった一人で丘に上って、見ず知らずの人間に話しかけるなどありえなかった。
 さらってくれと、言ってるようなもので、誰も彼もが隣人にまで目を光らし、
  奪うものと奪われるものを区別し、命いのちと後生大事にしていた時代。
 今は、こんなにも、無邪気に気を許せる時代。
「お母さんが心配するでしょう」
「ふんだ。いいの、自分ばっかり楽しんでるんだから」
「楽しくない?」
「楽しい! けどね、あたしだって、ワインの一杯くらい飲んでもいいと思うの」
 せっかくのお祭りなのに、と口を尖らせる。子供が元気なら、町は育つ。
 少し笑って、さぁと背中を押した。心配するから、と。
 時代は変わったけれど、人は簡単には変われない。きっと、今頃は心配に胸を熱くさせているに違いない。
「ワインは、来年までの我慢にしなさい。次の豊穣祭で、ちゃんとしたレディとして飲んだらいい」
「レディ? 来年は、あたしレディになれる?」
「お母さんの言いつけをちゃんと守ったら、なれるとも」
 じゃあ、帰る。と少女は素直にコクンと頭をふり、立ち上がった。
 頭に乗った花弁が、ひらひらと落ちていく。



「お姉さん、お名前教えて。あたしはテオミーネ。みんなテオって呼ぶけど、男の子っぽくて好きじゃないわ。
  ミーネって呼ばれるほうが好きなの。変?」
「少しも変じゃない。私は、アグリアス
アグリアス……アグ……アギー……うん、アギーって可愛い。そう呼んでもいい?」
「もちろん。私だって、ミーネと呼ぶのだから」
 すると、ミーネは満面の笑みで頷くのだ。
「ありがとう! じゃあねアギー、あたしもう行かなくちゃ」
 勾配のきつい坂を、ものともせずに駆け下っていく少女。
 そのまま行くのだろうと思ったとき、ふと、思い出したように振り返って彼女は言った。
「でも、ほんとにきれいな桜よね! あたし、ここが好きになっちゃった!」
 言い残して、少女は朗らかな喧騒の中へ。
 私は、見送ってまた桜と二人。




 幸福の鐘が吊るされなかった他のやぐらには、それぞれ楽器を手にしたものたちが登る。
 打ち鳴らされる鐘の音が十二に達すると、一斉に祝福の音楽が鳴り響く。
 辻を巡る歌の行進。町の誰もが歌を歌い、家の前に並べられた料理に舌鼓を打つ。
 全ての民がその歌を知っている。
  その日ばかりは貴族も平民も、盗賊も物乞いもわけ隔てなく、飲み歌い踊るのだ。


 踊れ踊れ。
 歌え歌え。
 とおりをめぐり春を謳え。
 ああ、また春がやってきた。
 冬の精霊はしばしご退場。
 いざ参れ太陽の子。
 わが子は健やか、町に響くは息災の鐘。
 踊れ踊れ。
 歌え歌え。
 とおりをめぐり春を謳え。
 ああ、また春がやってきた。


 ヴァイオリンの響き、トランペットの旋律。
 踏み鳴らされる人々の足音と、打ち鳴らされる手。
 歓喜の日々。ここに我らは生きているという、主張できる日々。
 豊かさの朝と昼に、人々は喜び、忘れないために歌を謳う。


 お腹が空いた。恐らく、この辺りで空腹を気にしているのは私一人だろう、と思う。
 今日は職のない者でさえ、食べるものには困らない。
 我慢することにした。その分、会った時の食事が楽しみになるだろう。
 空腹が、最良のスパイスと聞く。それでも、飢えるようになってもみっともないので、
 摘んでおいた木苺を一粒二粒と口に運ぶ。
 噛むと、甘酸っぱい味が香りと一緒に広がった。
 いつかこれを、皆で手分けして探して食べた日があった。
 思い出すと実に笑える。食料がなく、こうなったらチョコボを食べるしかないというくらいまでに飢えた一行。
 断固としてダメだと、食べるくらいなら一緒に死んでやるとラファが言ってきかないので、
 これは本当にそうなるしかないなと思ったとき、これを食べればいい、とのん気にいったこと。覚えている。
 その後は、何とか兎をとったり鳥を落としたりして飢えをしのいで、
  道を取り戻ったときには思わず泣き出すものまでいたという始末だった。
 覚えている。忘れることなく、その一言一言まで、不思議に鮮やかに、思い出せた。
 あっちはどうだろうか。想像して、忘れていても仕方がないと思った。
 想い出とは、ただ、私だけが忘れなければいいだけなのだから。


 日が落ちる。
 魔が出るという夕暮れを、人はしきりに陽気を振りまき、乗り越える。
 祭りは夜も続く。華といわれる喧嘩騒ぎや、酒に酔って腕っ節を競う男が出る頃合となると、
 それまで隠していたトマトの山が家の二階から女子供たちが一斉に投げ出すのだ。
 それもまた、歌になっているのだから面白いと思う。


 やれこの飲んだくれ。
 やれこの暴れん坊。
 出鱈目喧嘩をすりゃいい?
 出鱈目女を口説けばいい?
 帰れる家があると思うな。
 女房の料理が食えると思うな。
 聖アジョラだって許しゃしない。
 天から家からほうっぽりだされて、
 美味い酒が呑めると思うな。


 赤いトマトを顔面に浴びて、酔った男たちは腹を抱えて我先にと家へと戻るのだ。
 もうその頃は、宴もたけなわ。
  喧嘩の続きは来年だとばかりに、やぐらを下ろす役目を負った男たち以外は一時、全員引っ込んでしまう。
 やぐらを組んでた木材は、町の真ん中の噴水の近くでまとめて燃やされる。
 それが合図のように、またわらわらと人が出てくる。
 豊穣祭りの最後、巨大な火柱を囲んで、踊りを踊る。
 また来年、この火を眺めると祈り、みな踊るのだ。




 駆け足で過ぎ去った日の入りを、やはり私は一人で眺めていた。
 やがて灯がともる。町の真ん中で、近くに燃え移らないように噴水の横の石畳の上で。
 人はまた、疲れを知らないかのように踊る。
 遠くからでもその熱気が伝わってきた。
  火照るような感じになり、竹の容器に汲んでおいた水を一口飲んで冷やす。
 これもまたあの時に使っていたもので、なぜか捨てられずに今も使っている。
 無骨なのは今更なので、周りの人もあまり強くは咎めはしなかった。
「いい祭りですね」
 少し、ビックリした。
 私は木の根に座ったまま、その声を聞いた。なにやら悔しい気がして、振り返るのを止めた。
 声は、私の横にすっと座ると、続ける。
「みんな、何日も前から準備してたんでしょうね。トマト投げたり、大食い大会とか。あはは。昔は、出来なかったよなぁ」
「無事に冬を越せた。例年にない豊作だったから、飢えるものもいない。
 蓄えはそうとうにあるだろうし、たまにはいいんだろうと思う」
「国庫の余剰もかなりのようですね。貿易も上手くいってるようだし」
「食べ物も金もある。次は、人の心の隙間を満たす順番のようだな」
「ええ」
 風が吹いた。夜の帳の中、桜の花びらが舞い、風の音と一緒に踊っていた。
 私はゆっくりと立ち上がった。ラムザも、示し合わしたように立ち上がった。
「久しぶりです、アグリアスさん」
「そうだな。ラムザ
 そうして抱き合うのは、自然な仕草だったろうか。



 二人、もう一度腰を下ろして町を見下ろした。
 桜の花びらが遠くの火を照り返すので、ここだけがほのかに明るくなっている。
 他愛もない会話さえ、嬉しかった。
「アルマは元気か?」
「元気も元気。遊びたい年頃だって、僕も知ってるけどあれはやりすぎ」
「そんなにか」
「もうちょっと物静かなやつだと思ってたけど、なんでかなぁ。毎日毎日村の女の子が家に来るんだ。
  夜遅くまでおきてて騒ぐし、どうにも怒れないし」
「不甲斐ない兄のせいじゃないのか?」
アグリアス! そんな冗談!」
 大袈裟に驚いて、ラムザは妙におどけた仕草を見せた。
 それがムスタディオのモノマネなんだと、ややあって気づくことが出来た。
「微妙だぞ」
「あ、やっぱり? うーん、やっぱりアルマの嘘か」
「ムスタディオに会ったのか?」
「半年前に。元気だったよ、ヒゲなんか生やしてさ」
「ほー、似合ってたのか?」
「だったらいいんだけどね……」
「それは見てみたいな」




 仲間のこととなると、話はいつまでも尽きない。
「私も、ベイオウーフとレーゼに会った。子供がいたよ」
「あ、知ってる。確か名前は……えーと……」
ビアンカ
「そう。ビアンカ。可愛いんだってね、ベイウーフ、わざわざ絵描きに描かせて送ってきたんだから」
「確かに可愛い御子だった。が、ただで済まないのがあの夫婦の常らしいな」
「なになに?」
「私を訪ねてやってきた時だ。ベイオウーフの頬に、大きな絆創膏が貼ってある。どうもそれは、火傷の跡らしい。」
「わかった、レーゼがブレスを吐いたんだ。酔った勢いでよく吐いてたっけ」
「うむ、私も最初はそう思ったんだ。ところがどうもそうじゃないらしい」
 コホン、と息を整えて私はわざと声を低くした。
 ラムザのように、ベイオウーフの真似をしようとしたのだ。
「まぁ見たまえ。さぁビアンカ、ゲップをしないとな──とポンポンとお腹を叩いたと思うと」
「まさか」
「ぼわーっ! だ。母にも勝る火炎の勢いだった。おかげで、私の屋敷の居間には変な焦げが今でも残ってる」
「あっはっは。頬の火傷の犯人は娘か。ベイオウーフも大変だ」
「まったく、そうだと思う」

 
 月。華。火。夜を飾るものはたくさんある。
 しかし、それが全て消えうせたとしても、今のこの嬉しさは少しも減ることはないだろう。
 



 話は依然尽きることない。
 オルランドゥ伯は隣国で剣を振るい、すぐに一角の名声を得たということ。
 ラファとマラークは遠く異国に旅立ったということ。
 ボコがどこぞのレースで賞金を稼ぎまわり、ラヴィアンとアリシアがちょっとした富を築いたということ。
 メリアドールは西の海の近くで隠棲しているということ。
 それでもやがて、語り口はしりつぼみとなり、町に灯された炎のように、徐々に小さくなっていった。
 遠回りを経て、話の焦点は私たち二人のことになった。
「どうだった、異国は。二年、三年か。得るものはあったか」
「苦しい日々が、どこも続いていた。それでも人は生きていたし、絶対に消えはしないと、わかった」
「そうか。たくさん、学んだようだな」
アグリアスは、確か家督を継いだって」
「ああ。女だてらともてはやされたこともあったが、所詮オークス家、と思われているのだろうな」
「やっぱり、罰が?」
「オヴェリア様の護衛を全うできなかったのは、やはり大きかった。領地は接収され、多くをなくした」
 ラムザが気まずそうに俯いた。
 私は笑い飛ばすようにことさら明るく言った。
「が、気にしていない。騎士にとって大事なものは、そんなものではないだろう」
 騎士にとって、大事なものは。
 守るべきなにかを、守り続けようとする気概を忘れないこと。
「今は、穏やかに暮らしている。家財道具も売り使用人も暇を出した。
  生まれたお金で郊外に土地を買い、母上の別宅を用意した」
「そう」
「私への避難もあったので心労も重なったのだろう。静かに療養なさっているよ」





アグリアス、騎士団は」
「やめた」
 黙るラムザを、気にするなという風に私は付け加える。
「言っただろう。領地や財産などと一緒で、騎士団にいるとかそういうのも、大した
問題じゃない」
「剣は、捨てた?」
「いや、鍛錬は続けている。お陰で、私が意趣返しを企んでいると変な噂がしばらく
残ったよ」
「あはは、くだんの貴族は気が気じゃなかっただろうね」
「いいお灸だろう」
 私は、いつまでも剣を捨てられないだろう。
 いつまでも振るわれることなき剣を、鍛え続ける。
「いつか、私がいつものように朝から剣を振っていると、横でじっとあの方が見てら
した。すぐに剣を収めようとしたんだが、続けてくれという。朝陽を浴びながら汗を
かく私が、格好いいとおっしゃるんだ」


 ──ずっと、私だけの騎士でいてね。


 いつまでも、剣を振り続ける。
 その他愛ない約束がために。





アグリアスは、今でも、たった一人のための騎士なんだね」
 うなずいた。
 記憶はいつだって鮮明だ。
 笑顔も拗ねた顔も絵に描けるほどに。
 何気ない会話でも、世間に疎くていらっしゃったから、とても熱心に聞かれて、つ
いつい話す熱も上がったものだった。
 たまになさった、ままごとのような駄々も、今思えばあどけない。


 ──ねえアグリアス、私は美貌の持ち主で噂されていると聞いたのだけれど。
   ひどいわ。鼻だってそんなに高くないし。背も低いのに。
   私なんかよりあなたの方がよっぽど綺麗なのに。
   そうだわ、一度でいいから、あなたオヴェリアになって。
   きっと、お父様も驚かれなさるわ。
   愛しのオヴェリア、目の色まで変わってしまった、って!───


 そのたびに、私はご冗談を、といい、本気よ、と王女は頬を膨らまし、ご機嫌を戻
されるまで難儀したものだ。遠くはドーター、評判のプディングを買いに行かされた
こともあった。




 英雄王と妃の悲劇。
 飛び交う号外を読んだとき、不思議と涙が出ることはなかった。
 葬儀の列でさえ、私は毅然とした態度を意識することなく作ることができた。
 悲しい、と。夜一人になったときに思ったが、やはり泣きはしなかった。
 刺激的な報せに、町は混乱を呼び再びの戦乱を民は恐れたが、王の残した背骨はし
っかりと政治的機能を果たし、後継も決まり一月もたてば騒々しさは徐々になりを潜
めていった。
 その頃になってようやく、人々が彼女を忘れていってようやく、私は涙を流した。
 オヴェリア様。
 オヴェリア様、と。


 思い出すと、感情が甦り、私は今また涙の気配を感じた。人前で泣いたことなどない。
 あの時も、寝室で一人だった。
 けれど、横にいるのはラムザだ。だったら、涙を我慢する必要はないのだ。
 泣いた。思い出して、泣いた。
 オヴェリア様。
 あなたは、幸せでしたか。
 不甲斐ない騎士は、あなたを守り通すことは出来ませなんだ。
 あなたが背負った悲しみ、あなたが抱けなかったぬくもり。
 オヴェリア様。私はそれを思うだけで、涙が出るのです。
 ふらりと体を崩し、横のラムザにしがみついた。そうしなければ、何かが崩れてい
ってしまいそうだったから。
 抱きしめられる。見上げると、ラムザの顔も濡れていた。
 友を思い出しているのか。そうとしか生きれなかった、友を悼んでいるのか。
 泣いた。騒然とする街の祭りの熱気が、より一層悲しかった。
 あなたがいなくなっても、皆生きて、私も生きています。
 けれど、それが、なお悲しいのです。




 やがて沈黙が夜の闇を塗りこむように重くなった。
 静かな丘の上。
 いつの間にやら、祭りも終わりを迎えていた。
 遠くの森から鳥の鳴き声が何度か聞こえ、それを聞いている内に、昂った気持ちも落ち着いていった。
 悲しみは消えないが、それを守るという気持ちを忘れないこと。
 彼女に誓った騎士であることとはきっとそういうことなのだろうと、思う。
 ラムザの手が、私を落ち着かせようと背中をさすってくれる。
「……ありがとう、落ち着いたよ」
「ん。僕も、落ち着いた」
 月下。抱き合いながら、私は私たちの約束を正すために聞いた。
「けれど。よく、覚えていたな。ここで待ち合わせよう、など」
「そっちこそ。実はすっぽかされるの、覚悟してた」
「私だってそうだ」
 ラムザとアルマの葬儀を手配したのは、私だった。
 本当に近しいものだけに真相を教え、それ以外は完璧に隠し通した。
 アルマと二人で鴎国へと旅立つという言葉を、私は止めなかった。
 その代わり会おうと。
 いつか全てが落ち着いて、この国でも豊穣祭が行われるようになったら、
  この丘の一本の桜の木の下で、会おうと、私たちは最後の睦みで誓った。
 それからもう幾星霜。なぜか、長い間待ったという気はしない。
 だからこうして、何も違和感なく、抱きしめあえる。




以下、未完。