氏作。Part36スレより。



もうすぐ最後の決戦場となるオーボンヌ修道院への突入に備え、
ラムザは最も近い町、貿易都市ドーターのなじみの酒場でにて英気を養おうと宴を催した。


(もうすぐ長く苦しかった戦いが終わり、自分達の努力が実る!)
そう願ってか思ってか隊員の中からはハメを外しまくるものが続出した。
酒場のマスターの懇意もあって貸しきり状態で宴は夜通し行われ、現在も続けられている。


そんな中、隊公認カップルの者達は最後の夜を過ごすためにあてがわれた部屋に戻り、
あぶれた独り身の隊員は不安と寂しさを酔いと酒とご馳走でごまかす。


アグリアスはそんな彼らを横目にカウンターで一人、エールを仰いでいた。
現在、彼女の恋人であるラムザは宴を抜け出し最後の戦いに備えての準備におわれていた。


隊長が率先して隊の備品管理を行うと言うのは聞こえが良いが、
実際は担当の隊員が各自の欲求を優先してしまった尻拭いである。


ふと宴会の中央を覗いて見れば先ほどまで自慢の腹踊りを(強引に誘った)ムスタディオと一緒に踊っていた
オーランドゥ伯に変わってラファとメリアドールによるマラーク危機一発(誤字ではない)が行われている。


(また、マラークの傷を治療させられるのか・・・)っと一部の回復要員組の不安をよそに次々に刺さっていく
ラファとメリアドールの剣。
まぁ、刺されているマラークの方としてはたまった物ではないのだが・・・・。


そんな彼らを眺めていると視界の隅に待ち望んでいたくせ毛が入ってきた。


アグリアス・・・・さん、お待たせしました。 ってまた、やってるんですか、彼女たちは・・・。」
酒場の入り口から小走りで駆け寄りながらふと最愛の人の視線の先が気になってその惨状を確認したラムザ
ため息をついた。


「仕方あるまい、彼女たちとて人の子だ。ストレスだって溜まるだろうし、このような時だ・・・ハメを
外したいのだろう」
そんなラムザの様子を見てアグリアスは苦笑しながら彼にミルクで満たされたカップを渡した。
「ありがとうございます。っと・・・ここじゃ騒がしいですし・・・その、僕の部屋に行きませんか?」
「あ、ああ・・・そうしようか。 いや、そうしよう。是非そうさせてもらいたい。っと私は何を言っているんだ・・・」
そういって彼女は真っ赤になってうつむいた。
「これでは私が・・・そのふしだらに聞こえてしまうではないか。」
「ははは、良いんじゃないですか、そういうアグリアスさんだから僕も好きになったんですから。」
そういうとラムザアグリアスの腰に手を回し、そのまま抱き上げる。
「こ、こら!なななななななにをっ!!下ろしてくれ!一人で歩ける!!」
「くすくす、良いじゃないですか、折角水入らずの二人っきりになれるんですから・・・それに僕がこうしたいんです。」
「し、しかし!・・・その、他の隊員たちの手前・・・このような格好をするのは・・・・」
慌てるアグリアスの声に気付いたメリアドール達からは
「あら、アグリアスが珍しくお姫様だっこされてるわ」
「いいなぁ〜、ラファもいつか素敵な殿方にしてもらいたいなぁ〜」
「あの戦女神があんな風に慌てるのは見物だな!眼福、眼福」
「おっしゃ!100万回脳内に保存した!決戦が終わって生還できたら絵にして生活の糧にするか」
などとからかわれ、
「こういう時だからこそハメを外しても良いと思いますが・・・それともアグリアスさんは僕にこうされるのは
嫌なんですか?」
 目を潤ませながらジッとアグリアスを見つめるラムザアグリアスは内心、
(ああっ!そんな『捨てられた子犬』のような眼差しで私を見つめないでくれ!!)
っと慌てながらも(自分では)冷静に
「わわ、わかった!!このままで良いから早く連れて行ってくれ!!このままじゃ恥ずかしくて死にそうだ!!」
「はい、畏まりました。我が愛しの美しく可愛らしい姫騎士様。」
っとラムザにからかわれてしまう。
「わ、私とて一人前の大人なんだぞ!からかうんじゃない!!」
そう返しつつ、アグリアスは心の中で(このまま・・・決戦が無事に我々の勝利で終わってもこんな生活が
続けば良い・・・)
と願った。




決戦ヘの出撃前夜、先日の宴も今夜限りということもあってか独り身組の馬鹿騒ぎも普段の数倍は賑やかさである。
カップル組は晩酌をしたり、寝床の上で一戦どころか連戦をしていたりと思い思いの過ごし方を過ごしている。


ラムザアグリアスも例外ではなく先ほどまでは激しく愛し合い、求め合っていた。
今は余韻に浸りつつ決戦後のお互いの身の振り方を夢描いている。


アグリアスさんと幸せ一杯の夫婦生活、いつも楽しげな笑い声がする一軒の家、質素ながら暖かい食事を
囲む二人とその子ども達。
・・・って僕は何を・・・いや、でもアグリアスさんの子供なら可愛くて賢くて強い子に育つだろうな・・・)
(決戦が終わって無事に生き延びれたら、一緒にどこか田舎で一緒に畑仕事をしながら静かに暮らしたい。
子供は男の子と女の子、ラムザに似て両方とも可愛らしく賢くそして何より優しい強い子になるだろう。)
などと殆ど同じことを想像し、
((ここで言っておかないと万が一、途中で僕(私)が戦死してしまったらこの想いはどうなるのだろう・・・))
やはりバカップルのお約束と言うか・・・考えることは二人とも殆ど同じである。
「「あ、あの・・・」」
やはりバカップルのお約束をきっちり守り、同時に声を掛け合い、お互いに赤くなりながらも、
「ら、ラムザの用件の方が大事であろうから先に言ってくれ。」
「いえ、アグリアスの用件の方が大事だから先に言ってください。」
などと譲り合う初々しさもこの二人だからなのだろうか。


暫く譲り合った末、根負けしたアグリアスから用件を伝えることになった。
「その、ラムザ・・・貴方はこの戦いの後、どうするのかと思って。」
赤くなりながらも  . . .
「わ、私としては・・・ あなたと一緒に夫婦として・・・その・・・なんだ、暮らして生きたいと思っている・・
いや、います。」
その言葉にラムザは赤くなりながらも満面の笑みを浮かべ、
アグリアスさんに言おうとしたことを先に言われちゃいましたね。」
(・・・え?ラムザ、今なんて・・・言おうとしたって・・・プロポーズ!?嬉しい!!でも、私なんかが
ラムザとなんて!!(以下延々とプラス思考とマイナス思考がループ))
「勿論、僕もアグリアスさんと一緒に二人で一緒に何時までも幸せに暮らしたいと思っています。
例え何があっても貴方を手離したりしませんから・・・一緒に幸せになりましょう。」
などと無自覚にプロポーズをさらりと吐いた。


その台詞を聞いて一瞬にして溶岩よりも真っ赤になったアグリアスは落ち着かない頭を無理やり
落ち着かせようとして失敗した。
唯一、その沸点を越え、放熱量より発熱量が遥かに上回りオーバーヒートした頭で返せたのは
「・・・ありがとう・・・」
と言う言葉だけだった。


そして恥ずかしさを隠すように布団を被って
「あ、明日は大事な決戦に出撃するんだ!!そ、そろそろ休もう!!うん、そうしよう!!じゃあ、おやすみ!!」
っとそのまま寝てしまった。
ラムザもそんな彼女の仕草に可愛らしさを感じながらも苦笑しつつ、「そうですね、おやすみなさい、
愛しの我が妻、アグリアスさん」
っとトドメを刺したのであった。