氏作。Part15スレより。

「あれっ?」


 野営を設置し、荷物を探っていたラムザは間の抜けた声をだした。
「どうした、失せ物か?」聞き付けたアグリアスが声をかける。
「はあ…どうもそのようです」
「よく探してみたのか?」
「ええ…昨日はあったと思ったんですが……おかしいな」
 ぶつぶつ言いながら頭をかいている。とぼけた仕草に、アグリアスは微笑んだ。
「貴公らしくもないな」
「うーん……大事なものなんだけど……」ぼやきながらラムザは行ってしまった。
はて、とアグリアスは首をかしげる
(大事なもの……?ラムザはああ見えて、隊を統べるものとして身辺には気を遣っているのにな。
そんなものを無くすとは………?)
荷物をいじりながら考えるアグリアスに、霹靂のごとく閃いたことがあった。
(…!まさか……)
 まさしくそれは、壮大な閃きであった。


「この中に盗人がいるッ!」
 寝ぼけ眼の顔ぶれがそろうやいなや、アグリアスは高々と宣言した。夜も遅くに叩き起こされ、
しかもわけの分からない言葉に当然騒ぎだす一同。が、「静まれッ!!」というアグリアスの一喝で縮み上がる。
「…おい、何なんだアグリアスは」
「知らないわよ……、あたしなんか寝てたのに」
「…伯がお留守だからこんなこと言い出したのね、きっと」
「眠い……」
「うるさいぞ、そこっ!いいか、先日ラムザの所有物が何者かに盗まれた。宿に泊まっていた時だ。
知っての通り見張りを立ててあったので、残念ながら内部の犯行と判断する!いかなる意思でこのようなことに
走ったのかは知らぬが、仮にも隊の長の持ち物に手を出すとは言語道断!早々に名乗り出ろッ!」



 ビシッ、と聴衆を指差すも、当然返事はない。しばらくして欠伸が一つ聴こえた。
「……まあ、自白はもとより期待していない。言わぬのならこちらから制裁を下させてもらうぞ!
…ではラムザ、昨日の詳しいことを話してくれ」と、横を見るアグリアス
彼女の隣には、椅子に座らされ小さくなっているラムザがいた。
「…あの、アグリアスさん……。お気持ちは嬉しいんですが、もう夜も遅いですし、みんなに悪いですから…」
ラムザ……」息をつくと、アグリアスラムザの肩に手をつき、その困り顔を覗き込んだ。
「大丈夫だ、私がきっと犯人を見つけてやるから。な?気にしないで、さあ話してくれ」
 いいところを見せようと必死のアグリアス。熱っぽい息がかかり、ラムザも生唾をゴクリ。
「で……でも……」
「…ね?」
「……はぃ」 首を傾げながらの笑顔に、異端者コロリと陥落。同時に後ろで皆がガッカりした。


「……ふむふむ、なるほど。よし、聞いての通りだ!昨日の日暮れ頃から深夜までラムザは部屋を空けていた。
忍び込む機会は存分にあったと言うわけだ。というわけで、身辺捜査を行う!」
(身辺捜査!?)
 ギョッとする一同。まさかアグリアスでもそんなことは…、という淡い期待をぶち壊すように、
アグリアスはズルズルと背後の幕から荷物を引き出す。恐怖の捜査が幕を上げていた。



「ではまず、昨日ラムザと同室だったムスタディオからだ」
「なっ!?や、やめろアグリアス!」
「まあまあ、いいじゃないの」見なれた袋にムスタディオが慌てふためくも、メリアドールをはじめ、
面白そうな流れに乗じた面々に取り押さえられる。
「…特に怪しいものはないな…、臭いぞムスタディオ、服は洗え。……ん、これは?」
「…!そ、それは……!」
「育毛ポーションNO9……?女々しいぞムスタディオ!こんなものに頼って…。
男ならもっと堂々としてろ!少しはベイオウーフ殿を見習え!」
理不尽極まる仕打ちに、毛の抜けきったような顔のムスタディオ。
「…………」
「……落ち着いて、ベイオ…」 関係のない所にも被害が及んでいる。
「あははは!ムスタディオ。大丈夫よ毛がなくても死なないから、あはは!」
「では次は、向いの部屋のメリアドールだ」
「は……!?ちょ、ちょっとアグリアス!」
「まあまあ、いいじゃねえか」取り押さえるのはもちろんムスタディオ。
「ええと…なんだこれ。『シスター・マリーの午後の情事』……メ、メリアドール……」
「イヤアァーーー!」
 その後も夜の天幕からは絶叫が絶えなかった。



「……ううむ、これだけ捜査しても怪しいものがいないとは…」
 腕を組みつつ呻くアグリアス。後ろには調べ終わった荷物が山となっていた。
同様に周りにも屍が累々としていた。捜査の成果である。わずかな生存者がホッと息を漏らしかけた時、
「…うむ、よし。もう少しアリバイで絞ってみることにしよう。夕食後、見張り以外の者となると…」
 なんということ、まだ諦める気配はない。皆の気が遠くなりかけた時、隅で始終を傍観していたクラウド
ポツリと口を開いた。



「…………そもそも、何を盗まれたんだ……?」



 バッ、と壇上に集まる視線。思わずたじろぎ、アグリアスは背後のラムザを見た。
「…何が盗まれたんだ、ラムザ?」
「…えっ…?い、言ってませんでしたっけ。僕の、寝間着…。ねずみ色でフードのついた……」
「………ぇ?」
 ざわっと空気が変わった。アグリアスの背中に夥しい重圧がのしかかる。
(寝間着…?寝間着だと?)
(たかが服一つで……)
(こんな時間に……)
(あんな屈辱を……)
屍達が起き上がる。絶体絶命であった。しかし、アグリアスは素早く危機に対処していた。
ラムザに思いきりつかみかかると、彼女は後ろを見ないように怒鳴り立てたのだ。
「馬鹿者ッ!たかが夜着の一つや二つで大騒ぎしおって!皆疲れているというのに、いい迷惑ではないかっ!
大体、大切なものだといっただろうがお前は!」
「た、大切ですよ。妹が編んでくれたんですから…」
「そういう意味ではない!まったく呆れたやつだ。もういい、私は寝るぞ!」
 攻撃は最大の防御である。好き放題いったところで、アグリアスは逃げるようにそそくさと去っていった。
哀れなラムザに怒る気にもならず、容疑者達は次々と、その場で力なく泥眠に臥していった。




 テントの一つでは、まんまと逃げおおせたアグリアスが毛布にくるまっていた。
(とんだ恥をかいてしまったではないか…ラムザの馬鹿……)
 勝手なことを考えながら、アグリアスは幸せな眠りに落ちていく。



 …ねずみ色の上着に、フードをかぶりながら。






 終