氏作。Part15スレ。


貿易都市ウォージリスの外れに異端者と呼ばれる者達のキャンプが張られている。
無論、異端者なので誰も経路にしそうにないところにひっそりと。
その異端者一行の隊長ことラムザ=ベオルブは遠くに見える貿易都市を確認し隊員達に告げた。


「見張り部隊を6人程編成する、先日に休憩を済ませた者が見張り部隊として選ばれます。
 その他の方はウォージリスで世間の動向を調査してきていただきたい。
 ある程度の調査が終わりましたら、日が変わるまでの間ですが久方ぶりの貿易都市を楽しんできてください」


久しぶりの酒に心踊る者、ご馳走に歓喜する者、武具の買い替えに熱心な者、いつもと変わらず冷静な者、そして何故か上の空の者も居る。


「ウォージリス情報収集部隊はオルランドゥ伯、ベイオウーフさん、レーゼさん、アグリアスさん、ラヴィアン、アリシア、ムスタディオ、ラッド。
 以上八人です、非常事態に関してはいつも通りにチョコボで救援を求めに来てください」


各々の者達は確認の返事を発したが、一人だけ上の空の聖騎士が居た。
ラヴィアンに脇腹を突付かれて我に帰る。


「はっ!? すっ・・・すまない、ラムザ
アグリアスさん、大丈夫ですか? 最近調子が悪いみたいですが・・・」
「あ・・・ああ、ラムザは心配するな。 少し疲れているだけだ」
「テントで休んだ方がよろしいのでは? 7人でも情報収集は出来ます」
「大丈夫だ、ラムザ。 私を信用してくれ」
「貴女がそう言うのなら僕は信じますよ、でも無理だけはしないでください」


アグリアスは軽く頷くと仲間達と一緒に準備をする。
そこに最近、隊に加わったメリアドールが出てくる。



「あ、メリアドールさん。 今日も隊に関する事を覚えていただきたいのでお時間いただけますか?」
「ええ、問題ないわ」
「ごめんなさい、貴女も休憩に入れてあげたいのですが」
ラムザも時間を割いて教えてくれるんですもの、私だけ休むワケには行かないわ」
「本当に申し訳ありません」
「気にすることは無いのよ、私も早く覚えて隊にもっと馴染まないとね」


準備を終えアグリアスラムザとメリアドールが親しそうに話しているのを遠くから一瞬だけ視界に入れた。
そしてチョコボに乗り仲間達とウォージリスに向かっていった、その切なげな瞳は一瞬の間であったために誰も気づかない。


「今日は隊員の得手不得手を教えましょうか」
「敵を知り己を知れば百戦危うからず、教会の書庫にある著者不明の古代兵法書に書いてあったわ」
「そんな本があるのですか、出来れば読んでみたい物ですね」


隊員の得意な戦術や武器や距離感、地形などをメリアドールに丁寧に教えるラムザ
メリアドールは教会直属の騎士ではエリート中のエリート、スラスラと覚えていってしまう。


「流石ですね、メリアドールさん」
「そうでもないわよ、アグリアスオルランドゥ伯には敵わないと思うわ。
 私と違って戦場を知っているもの」
「メリアドールさんは戦場経験は少ないのですか?」
「私は鍛錬や模擬戦は怠らなかった、でもほとんどは事務仕事や視察、処刑も教会に属する者としてはやらなくては行けない事だったわ」
「処刑・・・ですか」
「あの頃は教会の教えは絶対だと思っていたけど、やはり処刑だけは後味の良いものではないわ。
 最初の頃は悪夢も見たし、体の震えが止まらなかった事もあったわ」
「そうですか・・・メリアドールさんは戦えますか?」
「降りかかる火の粉は払わなくては生きていけないわ、覚悟は出来ているつもりよ。
 無抵抗の農民を殺すよりは後味は良いと思う、戦場にいる以上殺しあうのはお互いに分かっているはず」
「不謹慎ですけど安心しました、貴女の信念は変わっていないみたいですね」
「父の目的をこの目で見るまでは死ねない、そして父の目的によっては私が父を止めなければならないわ」



ラムザは彼女の話を聞いて、二人の兄を思い出した。
この人は僕と同じなんだ、と思いつつ彼女の言葉を噛みしめる。


ラムザは何の為に戦っているの?」
「僕も貴女と同じです」
「えっ・・・?」
「兄が聖石に取り付かれ何を始めようとしているのか、それを確かめ止めるのが僕の戦う理由です」
「私も最後まで付き合わさせてもらうわ、貴方と目的は同じ、どんな危険が待っていようとも除名は受け入れないわよ」
「お互いに真相を知るために助け合いましょう、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」


お互いの意志を確認しあうラムザとメリアドール。
これもラムザが持つ魅力の一つであろうか、すぐに他人と打ち解け仲間にしてしまう。
武門の棟梁ベオルブ家の血筋の力か、あるいは・・・。


「ところで今日のご指導はおしまいかしら?」
「ええ、後は見張り交代の時間までは休憩ですよ。
 メリアドールさんも休憩に入っても大丈夫ですので、したいことがあればどうぞ」
「そうねぇ〜・・・ふふっ」
「?」


先程の深刻な表情とは打って変わり、何か探りを入れるような仕草のメリアドール。
ラムザは疑問の表情である。



ラムザ、貴方は今、恋をしているでしょう?」
「!? あっ・・・その、えっとそんなことは決してっ」
「そんなに慌てふためいて否定しても説得力が感じられないわ、図星でしょう」
「あ・・・そのぉ〜、こんな非常事態に不謹慎でしょうか・・・」
「誰だって恋をするわ、年頃に貴方達は尚更でしょうけどね」
「貴方達ということは僕だけではないのですか?」
「そうねぇ〜、ベイオウーフ殿とレーゼさんは見たままだし、ラッドはアリシアに夢中。
 ラファは貴方にご熱心、マラークは妹が可愛いくて自分のことは後回しみたいだし、クラウドは置いて来てしまった女性が居そうね。
 オルランドゥ伯は言わなくても分かるでしょ? ムスタディオとラヴィアンは二人とも気になる人は居ないみたいね。」
「すごいですね・・・メリアドールさん、僕は全然分かりませんでした」
「飽くまでも推測よ、実際は分からないわ。 ムスタディオって労働八号という機械ばかりいじってるけど、恋愛事には興味無いのかしら?」
「うーん、どうなのでしょう? でも、妹のアルマはすごい懐いてますね」
「妹さんは彼を気に入っているのね、兄として複雑でしょう?」
「いえ、そうでもないですよ。 いつも僕のことばかり心配しているアルマが自分の道を歩んでいってくれて嬉しいかなぁ」
「良いお兄さんね、マラークはちょっと石頭すぎるかも知れないわねぇ」
「でも、彼らは二人だけで生きてきましたから仕方ないと思います」
「そういう過去だったのね、兄妹というよりは父娘に近いのかも知れないわね」


隊の皆の事を色々と知ることが出来てメリアドールは楽しそうだ。
ラムザも彼女の一面を見ることが出来て、とても有意義な時間が流れている。


「で、話は戻るけど」
「はい、なんでしょう?」
ラムザの恋のお相手はアグリアスね」
「えっ!? あっ、はい・・・そうです」
「いつもの穏やかで紳士で物腰の良いラムザからは想像がつかない反応ね」
「あまりからかわないでくださいよ〜、ひどいじゃないですか〜」
「まあ良いじゃない、他人の恋愛事は興味をそそるものなのよ」
「そ、そうですか?」
「ムスタディオやラッド達もそう言うと思うわよ」
「ええ〜、そんな〜」



いつもは落ち着いているラムザも恋愛事に関しては初恋である。
普段は見せない歳相応の仕草と反応にメリアドールは楽しそうだ。


アグリアスのどんなところに惚れたのかしら?」
「えっ? 言わなくてはダメでしょうか・・・」
「勿論よ、剛剣か隊のみんなにバラそうかしら?」
「あうっ!? わかりました、白状しますからそれだけは・・・」
「どんな経緯か楽しみね」
「そうですね・・・初めて会ったのは傭兵時代にオヴェリア様の護衛任務の時です」
「傭兵時代? 貴方は傭兵だった時代があったのね・・・」
「ええ、傭兵になってしまった理由は兄ダイスターグの計略によって、親友ディリータの妹・・・ティータが殺されてしまったところから始まります。
 ディリータティータは僕にとって家族同然のかけがえのない二人でした、身分の差はありましたが身分など何時かは越えて四人で平和に暮らしたいと願ってました」
「うん・・・」
「彼女が殺され、ディリータは失踪し、僕は家に帰るのを拒否し彷徨っていました。
 その時、僕を拾ってくれたのはガフガリオンでした」
「ガフガリオン、悪名高きダークナイト、実力は折紙付きと聞いたわ」
「ええ、僕はガフガリオンに戦場で生き残るために必要な物を教わりました。 いえ、教わるというよりは叩き込まれました」
ラムザの強さの秘密はガフガリオンだったのね」
「でも、ガフガリオンに教わったのは「生き残る為の知恵と力」だけでした。
 僕は自分が何の為に戦い、何の為に生きているのか見出せないままひたすら戦いました」
「・・・・・・」
「そしてオヴェリア様護衛任務に就いたあの日、アグリアスという一人のホーリーナイトに出会いました。
 その人は僕には持っていない物を持っていました、意志の通った瞳・貫くべき信念・凛とした空気」
「確かにアグリアスは騎士として不可欠な物を持っているわね・・・」
「騎士として必要な物を持ち、美しい容姿も持った彼女に僕は気が付いたら虜になっていました。
 叶わぬ思いでも良い、この人が傷ついた時に守れるような人間になりたい、と」
「十分にその資格はあると思うわ、今の貴方には」
「いえ・・・まだ僕には相応しくありません、もっと強くなり彼女と同じ線に立つことが出来たなら、そこが始まりです」




「貴方は自分に厳しいのね、でもね」
「なんでしょうか?」
アグリアスは今悩んでいるのよ」
「えっ? そうだったのですか?」
「最近はずっと私に付きっきりでしょう? 彼女、構ってもらえないし・・・どうやら私達の仲が気になっているみたいね」
「そうだったのですか・・・僕は緊張しながら何回もアグリアスさんを買い物や散歩、鍛錬やボコの毛の手入れなどに誘っていたのですけど・・・」
「多分、彼女の事だから「自分はラムザに相応しく無い」と思っていると思うわ」
「ええっ!? そんなとんでもない・・・僕の方が」
「貴方もどうやら謙遜するクセがあるようね、あまり自分を乏しめても良くないわよ」
「うっ・・・気をつけます」
アグリアスも誘われてまんざらでは無いと思うの、だからラムザも曖昧に断られても退いてはダメよ。
 たまには力押しで行ってみたらいかがかしら」
「わかりました、参考にさせていただます。 色々と助言をありがとうございます。」
「どういたしまして、貴方の恋、実ると良いわね」


気が付いたら情報収集隊が帰ってくる時刻になっていた。
もうすぐアグリアスも帰ってくる、今度こそ彼女と一緒にどこかに行きたい・・・そう思いながら彼女の帰還を待つ。
やがて彼女達は帰ってきた、ウォージリスに行く前のアグリアスは何処か覇気の無い雰囲気だったが、今のアグリアスは何処か開き直ったかのように見える。
何があったのか分からないが、ラムザは彼女の調子が戻ったのを見て安堵の表情を浮かべる。


世間の動向については教会側は表の顔はいつもと変わらない様なので、有益な情報は得られなかったようだ。
教会側も色々と裏でしている事が漏れないように必死なのだろう。


就寝の時間が近くなってきたので、ラムザは見張り番以外の隊員達に就寝を告げる。
ラムザもテントに入り「今日、メリアドールさんに言われたことをいつかは余裕のあるときに実践しよう」と誓ったのであった。
彼のアタックはいつかは成功する日が来るのだが、それはまた別の機会に。



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