氏作。Part15スレより。


神殿騎士メリアドールが父親の真意と聖石の秘密を確かめるべく、ラムザ一行に加わった。
最初、一方的にラムザ達を敵とみなしていた彼女は流石に馴染めるか不安の色を隠せなかったが
元々騙されていたり、自らの意志で離反しラムザ一行に入った人物も多い。
本来は素直で穏やかな彼女は次第に隊に慣れていった。
面倒見も良く、最近ではトラブルメーカーの機工士と元傭兵の奇行を止めたりしているようだ。

「最近、剣を持つ手が重いのだ…。なぜだろう…?」

そんな中、艶やかな金髪と容姿を兼ね備えた女騎士が自分に問い掛ける。
彼女はアグリアス、名門では無いが中流貴族のごく普通な家庭で生まれた女性である。
彼女はどんな理由や境遇だったのかは分からないが、士官アカデミーに入学。
その後、騎士の称号を得るために青春の全てを捧げた。
その成果が高位の騎士「ホーリーナイト」の称号である。
士官アカデミー卒業と共に戦地へ送られ、数年を戦地で過ごしたのち、教会からの要請で王女オヴェリアの護衛に回る事になる。
オヴェリアはディリータの元に居るため、現在はラムザ一行の主戦力として活躍していた・・・が。

「よーぅ、アグリアスさん。なんだかあまり元気がないな? 何かあったのか?」
「お前はいつも気楽だな、ムスタディオ。」
「そういうなよな、オレは辛いことがあっても前向きなだけさ」
「お前らしいな・・・私は悩みがあるとすぐに顔に出てしまう」
「まあ、アグリアスさんの悩みは大体わかるさ。 ラムザをめぐ・・・ヒィッ!?」
「頭と胴体の御仲が宜しくない様だな?切り離してやろうか?」
「それだけはお許しを〜っ」

愛剣ディフェンダーを首筋に突きつけられたトラブルメーカーは、踵を返して逃げていった。
もはや彼の日常の行動なので、特に誰も気にしないのが可哀想なところだ。


「あのお調子者は・・・ブツブツ」
アグリアス、君は飲まないのかい?」
「珍しいわね、でも酒場にまで来て剣を磨くものではなくてよ」
「ベイオウーフ殿とレーゼ殿・・・」
「ムスタディオ君には困ったものだな、他人をからかうのが好きなのは構わないのだが」
「そうね、あれではいつか本当に首と体が別れるか分かったモノではないわ」
「あぐぅ・・・」
「それより、最近の君は覇気が感じられないな、理由は大体分かるが」
「そうねぇ、メリアドールが入ってきてからかしら、フフッ・・・」
「あまり私をからかわないでください、ムスタディオと変わりません」
「君はからかうと面白い人だからな、隊の皆が口を揃えて言うよ」
「このままで居ると、もっとからかわれるわよ」
「肝に銘じておきます・・・」
「彼女は彼女、君は君だ。自分が劣っているとか考えてはいけないものさ」
アグリアスにはアグリアスの素敵なところがあるわ、頑張って」
「・・・ありがとうございます、お二方とも」
「「いえいえ」」

大人の二人はまた自分達の世界へと戻っていった。
アグリアスにとってはベイオウーフとレーゼはある意味「理想の存在」である。


「私もラムザと・・・」
「隊長〜、ラムザ隊長となんですか〜?」
「なんなんだろぅねぇ〜」
「お前達は・・・既に出来上がっているな?酒の香りがするぞ」
「話しを逸らさないでくださいよ〜、皆にバラしますよ〜」
「あっはっは〜、バラすバラす〜」
「弱みに付け込むとは・・・それでも騎士かっ」
「私達はもう騎士とは言えない立場じゃないですか〜」
「それもそうねぇ〜」
「あぐぅ・・・頼む、言わないでくれ」
「隊長には良く助けられてますから言いませんよ〜、ヒック・・・」
「たいちょ〜バンザーイ」
「お前達、恥ずかしいからどこか行け・・・」

無理矢理に部下二人を追い払った、彼女達の無邪気さが時々羨ましく思う。
女性らしさを持ちつつ、騎士としての気品を持つ部下達を見てアグリアスは溜息を放つ。
だが酒が入ると上司にからかうのは止めてもらいたいものだ。

「私の部下はいつも呑気なモノだ、異端者になったときも私についてくるとはな・・・」
アグリアス殿、貴公は一人で晩酌かね?」
「いえ、オルランドゥ伯。気が進まないだけなのでお気になさらないでください」
「折角の憩いの時、少しは気を休めぬと後々に響くと思うが如何かね」

オルランドゥは酒瓶をテーブルに置く、そして彼女にグラスを差し出す。
酒瓶の中身にはワインが入っている、庶民向けの飲みやすいワインのようだ。


「貴公は私は避ける傾向があるな、たまには私と呑まぬかね?」
「避けるなど滅相も無い・・・ただ・・・」
「この部隊に身分なんて物は飾りに過ぎない、畏まる必要は何も無いのだよ」
「しかし、剣聖と呼ばれる御仁の前で、騎士として無礼な態度は・・・」
「私としては、騎士ならば私を圧倒する勢いで接してもらいたいものだが、はっはっは」
「伯を圧倒するなど無礼慇懃でございます」
アグリアス殿は硬い、私より若いが考え方が古いな」
「うっ・・・伯まで私をからかうのですか」

今まで避けていた訳ではないが、オルランドゥとは作戦会議以外では話しをしたことがなかった。
戦い振りは正に戦神、剣技・気迫・洞察力・観察力全てにおいて敵わないと思っていた。
そんな剣聖と呼ばれる老人がユーモアがあるとは思わなかったのだろう。

「最近の戦い振りはあまり芳しく無い様であるな」
「恐れ入ります・・・皆が命を賭けて戦っている中で、私だけが無様な戦いをしているのは事実です・・・」
「メリアドール殿が隊に加入して少々経ったある日から動きに迷いが見える、違うかね?」
「・・・・・・」
「貴公はわかりやすい女性であるな、はっはっは」
「あぐぅっ」
「その原因、バルバネスの倅であろう」
「!?」
「メリアドール殿は加入してまだ僅かにしか経っておらぬ、ラムザが隊のしきたり、隊員の紹介、主な戦術法、今後の大まかな予定などで彼女に付きっきりであるからな。
彼女がラムザを見る目は誰かと重ねている、言わなくても分かるであろう」
「メリアドール殿の弟、イズルードでしょうか」
「彼女は弟を大事にしていたのが伺える」
「ええ、素晴らしい事だと思います」
「父親に裏切られ、今は誰かに支えられていないと辛い時期でもあるのだろう。ラムザも身内に裏切られた事がある、それが痛いほど分かるのであろう」
「・・・」
ラムザと酒を交わしたことがあるのだが、その時に私にも話してくれたな」
「何をでしょうか?」



「自分が裏切らて茫然自失だった時に生きる糧と方法を教えてくれたのはガフガリオンだと」
「あの男は現実主義者ですから、いつでも現実しか見ていませぬが傭兵としての腕は一流を飛び越えています」
「だがガフガリオンには「それ」しか教わっていない、自分をここまで立ちなおらせてくれたのは「ある女性騎士」の意志と生き様が自分の進むべき道を示してくれたそうだ」
「女性騎士・・・ですか? 同じ女性と騎士として見習いたいものです」
「ふっはっはっは、アグリアス殿は中々鈍い」
「・・・? あまり笑わないでください」
「「女性騎士」とは貴公、アグリアス殿のことであろう」
「なっ!?」
「バルバネスの倅も年頃になったからな、貴公の事を話す時はすごく真剣だ、時々に頬を赤く染めながら話している」
「そのような・・・私如きがラムザに・・・」
「貴公は自分が思っているほどに小さい存在ではない、皆も口には出さぬが信頼を置いている」
「確かに私を慕っていただけるのは嬉しいことです・・・ですが、私は伯やラムザとは身分が」
「先程言ったであろう、身分などこの隊では飾りにもならない、と」
「ですが・・・」
「貴公はもっと馬鹿にならぬといかん、大袈裟だがそのくらいの気概で考えを改めると良いかも知れぬな」
「ば、馬鹿ですか?」
「悪い意味の馬鹿ではない、考えを柔軟に持て、ということか」
「・・・努力します」
「その話は置いておくが、最後に一つ」
「何でありましょうか?」
「確かにラムザは今、メリアドール殿の世話で忙しい。 だがラムザはメリアドール殿に特別な感情は持ってはおらぬ。
 どちらかと言えば、姉のような存在と思っているであろう。 だが貴公には特別な感情・・・早く言えば「恋心」という感情は持っていることは確実だろう」
ラムザが私に!?」
ラムザがメリアドール殿に指導する前、あれほど貴公はラムザから誘いが来たというのに受けていなかったとはな」
「あぐぅっ」
「安心するがよい、ラムザの心はアグリアス殿で満たされておる。
 後はアグリアス殿次第だ、これで迷う必要はあるまい?」
「伯・・・鈍感な私に助言と激励、感謝いたします!」
「気にせずとも良い、歳を取るとこの位の事しか出来ぬのだよ、若い者達には」


翌日からアグリアスは剣を磨くのを止め、部下二人を引き連れて剣の腕を磨いていた。
暫く見せていた不安な表情は消えて、いつもの凛々しい表情には汗が流れる。
部下二人は上司が急に熱が入り前以上の激しい訓練にやや気力が下がりがちのようだ。

「立て!!アリシア!!敵には聖騎士もいるんだぞ!!この程度の聖剣技、耐えられずにどうするのだ!?」
「そんなこといいましても隊長〜、もうかれこれ休憩と回復無しで既に夕方になっているのですが・・・」
「ラヴィアンはそこで伸びてるしどうしようもないな・・・」

そこへ剣聖と呼ばれる老人が剣を携えて歩いてくる。
アグリアスアリシアは無礼の無い礼節で剣聖を迎える。

「鍛錬に精が出るとはいえ、あまり部下を虐めてはならぬぞ、アグリアス殿」
「これはオルランドゥ伯、私の部下は緊張感が無いのでこの位でよいのです」
「ふむ、もう少し自分の部下を信用してみては如何かね?今までの戦いを生き抜いて来た者達であろう」
「分かりました、伯がそこまでおっしゃるのならば・・・」
「ラヴィアン殿は・・・暫く休ませておくにして、アリシア殿は休憩に行って来ると良いであろう」
「申し訳ありません、伯。 でもこのままだとアグリアス隊長に殺されそうです」
「はっはっはっは、三人の関係が手にとるように分かる」
「あぐぅ・・・」
「時にアグリアス殿、アリシア殿の代理で私がお相手になろう。 それとも、この老体では不服かね?」
「滅相もありませぬ、騎士として最高の御仁にお相手してもらえるのならば」
「準備は出来ている、騎士ならば私を圧倒してみせよ」
「この命、賭けるつもりで戦わせていただきます」




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