氏作。Part13スレより。


 むかしむかし、とても仲むつまじい夫婦がいました。
夫の名前はラムザ、妻の名前はアグリアスといいました。
ラムザさんは少し抜けたところがありましたが、穏やかで誰にでも好かれる優しい人でした。
アグリアスさんはとても美しいけれど、厳しくちょっぴりとっつきにくい人でした。
まったく正反対のくみあわせに、首をかしげる人々も少なくありませんでしたが、
ふたりはとてもあたたかい絆で結ばれていました。
 とはいえ温和なラムザさん、その性格のとり合わせが祟って、すべての家事と狩りをまかせられてしまい、

昼は昼で…、
ラムザ、いいかげんに起きろ!」
ラムザ、おそいじゃないか。どこにいっていたんだ!」
ラムザ、腹がへった。早くなにかつくってくれ!」


夜は夜で…、
「やっ…はぁ、ラム ザぁ……。わたし、もう……あっ…そんなところ、みないで…。」


といった風に、いつもアグリアスさんのお尻にしかれる毎日でした。
これはそんな仲むつまじいふたりのおはなし。




【 チョコボの恩返し 】


 いつものように狩りに出かけたある日のこと。
ラムザさんは一匹の立派な赤チョコボがワナにかけられているのを見つけました。
チョコボラムザに気がつくと、バサバサと傷付いた羽をばたつかせて逃げようとします。
心優しいラムザさんはとても放っておけません。
あたりを見回し、罠をかけた猟師がいないことを認めると、
驚かさないようにそっと近付き、罠を外し持っていた薬草を傷に塗りこんでやります。
大喜びで空を舞うチョコボ、するとラムザさんに向かってはっきりとしゃべりました。
「ご恩は忘れません、必ず、必ず恩返しに参ります。」
そして美しい奇跡を描き、飛び去っていくチョコボ
 よい行いのあとは心もすがすがしいものです。
ラムザさんはチョコボを見送ると、足取りもかるく家路につきました。
しかし獲物をとり忘れていたので、へそを曲げたアグリアスさんに晩ご飯抜きを命じられてしまいました。
それでもアグリアスさん、断食を命じておいてあとでこっそり夕食を作ってやろうと挑戦し、
うまく行かなくて泣きそうになっているのをラムザさんに慰められて、結局ふたりで作って、
まあとにかく、やっぱりふたりは今宵も仲むつまじいわけでした。


 それから幾日かたったでしょうか。

 ある夜、トントンと戸を叩く音にアグリアスさんは起こされます。
こんな遅くに……、と眠い目をこすりながら戸をあけると…。
なんとそこには息をのむような絶世の美女がおりました。
ぽかんとしているアグリアスさんに、赤毛の女の人はにこやかに話しかけます。

「夜分遅くに申し訳ありません。あのう、ラムザ様のお住まいはこちらでしょうか?」
「そ、そうだが…失礼だがどちら様で?」
「えぇ…実はわたくし、先日ラムザ様にたいへんお世話になった者でして…。」
「はぁ…そうですか、ラムザに…。」
「はい…、わるい男の罠にかかり、途方にくれていたわたくしの元にあの方が現れて…。」
「それはそれは…。」
ラムザ様はおびえるわたくしの胸をなでて…あの戒めから解き放ってくださいました。」
「………むね?。」
「ええ、それにわたくしの身体に、やさしく丁寧に薬まで塗りこんでくださって…
 本当に、とてもよくしていただきました。」
「…………ほぉ。」
「ですから、ぜひご恩返しにと。このわたくしの身体で…」
「いや結構。せっかくだがもうお引き取り願おう。」
「え……、でもあの、わたくし、織物を…。」
「やかましい!とっとと帰らんかこの淫売がーっ!!」
「きゃー」

 せっかくのご恩返しでしたが、残念ながらラムザさんにはとどきませんでした。
かわりに焼きもち焼きのアグリアスさんから、心のこもった平手をもらいましたとさ。




【 三人のアグリアス 】


 木漏れ日が射し込む森のなか、アグリアスさんはトテトテと早足にあるいていました。
今日は朝から奮闘してお弁当をつくり、釣りをしているラムザさんと一緒に食べようと計画していたのです。
やがて目的地の湖にたどりつき、キョロキョロと夫の姿をさがします。
足をプラプラさせながら釣り糸をたらしている彼の姿を見つけると、ちょっぴり悪戯心がわいてきたアグリアスさん。
背後からこっそりと近付くと…、わっ!!とひとこえ。
「ぅわっ!!!」
気の弱いラムザさん、あんまり驚きすぎて、釣り竿を落としてしまいます。
しゅん、とうなだれるアグリアスさん、ラムザさんはあわててそれを慰めます。
 すると、湖面からまぶしいほどの光とともに美しい女神様があらわれました。
そしてあっけにとられているふたりに向かって語りかけてきます。
「釣り竿を落としたのはあなたですか?」
「は、はい。」
「それでは…あなたが落としたのはこの金の竿ですか?」
そういうと、女神様は純金の立派な竿をさしだしました。
驚きながらも、正直者のラムザさんは
「いいえ、もっとみすぼらしい竿です。」
「それでは…あなたが落としたのはこの銀の竿ですか?」
そういうと、やはり銀でできた高価な竿をさしだしてきました。
「いいえ、それよりももっとみすぼらしい竹竿です。」
「それでは…あなたが落としたのはこの竹の竿ですか?」
そういって女神様がさしだした竿は、まぎれもなく自分のものでした。ラムザさんはうなずきます。
女神様はにっこりと笑うと、あなたの正直に免じて、と竿を三本とも置いて湖に消えていきました。


 このやりとりに興奮したアグリアスさんは、もっとやってみよう、と
ラムザさんがとめるのも聞かず湖に石を投げはじめました。
ところが、ひと際大きな石をなげこもうとしてあやまって自分が湖に落っこちてしまいました。
しばらくしても浮かんでこないアグリアスさんに、いてもたってもいられなくなったラムザさんが飛び込もうとした時、
またも湖面が光に包まれ、女神様があらわれました。よく見ると頭にたんこぶができています。
「石を投げ込んだのはあなたですか?」
「………いいえ。」
「……では、女の人を落としたのはあなたですか?」
「…はい。落としたというか落ちたというか。」
「それでは…あなたが落としたのはこの清楚貞淑アグリアスですか?」
そういうと、三つ指をついた大人しそうなアグリアスさんが出てきました。
「…いいえ、ちがいます。」
「それでは…あなたが落としたのはこの大人なお姉さんのアグリアスですか?」
そういうと、色っぽい格好をしたアグリアスさんが出てきて、挑発的な視線を投げかけてきました。
「…いいえ、ちがいます。」
「それでは…あなたが落としたのはこのがさつでわがままなアグリアスですか?」
そういうと、女神様に首根っこをつかまれてキイキイと暴れているいつものアグリアスさんが出てきました。
「はい、その人が僕のアグリアスさんです。」
女神様はにっこりと笑うと、あなたの正直に免じて、とアグリアスさんを三人とも置いて湖に消えていきました。


 他のアグリアスさんを湖に返すのに、ふたりはたいへん苦労したそうな。
人間 欲のかきすぎは苦労のもと。
とはいえ、ラムザさんに選んでもらえて御満悦のアグリアスさん。
まんざら欲張りも損ではなかったようです。